Top Page GALLERY 2013


【1月の表紙】

2006・01・10 米坂線 伊佐領−羽前松岡 (NikonF4s AFNikkor80-200oF2.8 RVP100)
強風が木々を揺らし、降りしきる雪に時折視界が遮られる。 雪だるまのようになった車から機材を取り出し、雪壁に這い上がる。同業者の横に三脚をセットし、かじかむ手で構図を決めると、早くも遠方に1灯のライトが光った。 キャタピラ音を響かせて、杉林に雪塊を投げつけながら、歩むような速度で鬼神が迫る。白いベールを抜けて、ファインダーにDD14が鮮明な像となって浮かび上がった。 目の前の吹き溜まりを慎重に作業し、再加速。一吹き紫煙を燻らせて、特雪は再び白魔の中に消えて行った。

ここ10年ほどで、特急から普通列車までJR型の車両が大勢を占めるようになった。確かに、新型の車両は速く静かで、スマートだ。 だが、その反面モーターやエンジンを精一杯唸らせていた走っていた国鉄型車両のような「熱さ」が感じられず、撮る側として物足りないのもまた事実。 そんな中で“雪レ”と呼ばれる除雪列車は、いまだに限界一杯の泥臭い姿を我々に見せつけてくれる。二条の鉄路を守ること。 その使命感を背負い、悪条件のなか奮闘する彼らの勇姿を、今シーズンもまた見てみたいものである。



【2月の表紙】

2010・02・07 山陽本線 大畠−神代 (PENTAX67 smcPENTAX90oF2.8 RVP50(+1))
真冬の早朝、海峡を渡る風は身を切るように冷たかった。水平線から顔を出したばかりの太陽が、瀬戸内の島影をオレンジの空に浮かび上がらせる。 条件は最高!はやる気持ちを押さえながら三脚を立てた。今日は津和野まで“あすか”の団臨がある。送り込み回送は、ちょうどこの辺りをいい時間に通過するはずだ。 間もなく遠方に2灯のライト。 シャドウは潰す強気の露出で、朝日を浴びた“あすか”を切り取る。 海風に乗って耳に届く軽やかなジョイント音とスロフのエンジン音は、撮影者に勝利を実感させる心地よい余韻。 「あせかぜ」で撮れなかった山陽路の名舞台を、ようやく切り取ることができた。

暦の上では間もなく春。厳しい寒さは続くものの、昼間の時間は日一日と長くなってゆく。 しかも、空気が澄んでいるだけに、日の出日の入りの前後20分間は目に映る全てが実にドラマチックな色に染め上げられる。 日照限界で諦めていたターゲットが射程圏内に入るまでもうすぐ。鋭い光に照らされた列車たちの雄姿を、ファインダーを通じて眺めたいものである。



【3月の表紙】

2006・03・04 樽見鉄道 横屋−東大垣 (NikonF4s AFNikkor300oF4ED RVP100)
最後の普通客レ…そう聞いて誰もが思い浮かべるのが2001年まで残った筑豊の50系だろう。だが、それはJR線上での話。 私鉄・3セクも含めてみると、岐阜県の樽見鉄道には2006年まで朝1往復の普通客車列車が残っていた。 しかし、薄墨桜シーズンの臨時列車は何回か撮影に訪れていたものの、日曜ウヤ、区間は大垣−本巣と与しづらい定期客レにはこれまでなかなか手が回っていなかった。

春というにはまだ時期尚早な3月初め。この時は山陰に廃止間際の「出雲」を撮りに行く予定だった。が、前日の鳥取は季節外れの大雪。 山間部の道路は凍結し、とてもノーマルタイヤのレンタカーで深夜に峠越えをする気にはなれず、悩んだ挙句に安全策で出撃先を樽見鉄道に変更したのだった。 奇しくもこの日は、年度末いっぱいでの貨物列車廃止に先立って客レが廃止される最終日。 これもありか!と大垣付近では一番のハイライト、揖斐川の鉄橋前後の大築堤を狙う。 間もなく、原色のTDEに牽かれた2両の14系がファインダーに現れた。春は別れの季節。 これをもって、日本の鉄路から定期の普通客車列車は完全に姿を消したのであった。



【4月の表紙】

2010・04・08 内房線 上総湊−竹岡 (NikonF5 AFNikkor20-35oF2.8 RVP100)
今年は桜前線の到来が実に早かった!4月を待たずに九州南部から関東にまで駆け上がり、お彼岸を過ぎた頃には都心は満開に。 小湊やいすみの沿線はそれから約1週間後が見頃なので、月末が撮り頃かと楽しみにしていた。 ところが、持ち前の晴れパワー(?)はどこへやら、3月下旬は休みの日がことごとく曇りまたは雨。 例年は1日くらい移動性高気圧とシンクロして満足なカットを頂戴できるのだが、今シーズンは勝ち星ゼロのまま、早くも春の鉄ちゃん戦線は前半が終わろうとしている…。

3年前は、房総の113系に引退の噂が流れ始めたため、冬場から桜ポイントを幾つかリサーチしていた。 ここ上総湊の鉄橋もその一つ。漁港を入れたり山から俯瞰したりするアングルが有名だが、良く見ると川縁の土手にはソメイヨシノが植えられていた。 晴れと休みと満開が揃った1年にたった1度のチャンスの日、早朝から迷わずこの場に三脚を立てた。広角で鉄橋・桜・青空の3要素を配す。 7時過ぎ、ファインダーに現れたのは湘南色だった。ネタとしては嬉しいが、これじゃあどこで撮ったかわからない。 内房ならやっぱりスカ色だろう。そうだ!とっさに発想を変え、連結面でシュート。極まった!



【5月の表紙】

2001・05・19 紀勢本線 大内山−梅ヶ谷 (MamiyaM645SUPER SEKOR110oF2.8N RVP(+1))
大台ケ原の山懐に抱かれて、早朝の紀勢本線を南下していた3161レ。 十数年前の当時にあってもDD51のダブルヘッダーは貴重な存在で、 日の長い季節になると多くの人が三瀬谷鉄橋・ イセカシSカーブなど朝日に照らされる名舞台にこの列車の雄姿を追っていた。 原付以外に自前の移動手段を持たなかった学生時代の私は、京都という恵まれた場所に住んでいながらあまり出撃を重ねることはできなかったが、 それでもレンタカーを借りたり仲間の車に便乗させていただいたりして、幾度か早朝の現地に足を運んだものだった。

この日はイセカシに3度目の挑戦。しかし恒例の朝霧に阻まれて通過直前になっても勝算はなし。泣く泣く大内山に移動した。 僅か数キロで霧は抜け、このカーブには鋭く眩しい日差しが差し込んでいた。 イン側からマミヤ110oで稜線まで入れてフレーミングする。 正直編成長はサッパリわからないが、当たるも八卦当たらぬも八卦杉林の影から現れた重連を引っ張れるところまで引っ張ってシャッターを切った。 あれから干支も一回り、伝統の貨物列車は更新ガマに浸食され、重連も解消され、ついにこの春改正で廃止となった。 もう少し熱心に追っていれば…いつものことだが、今さらながらにそんな後悔の念に駆られる今日この頃である。



【6月の表紙】

2012・06・09 いすみ鉄道 国吉駅 (NikonD700 AF-SNikkor70-200oF2.8VRU ISO400)
薄暮のバルブには雨模様が良く似合う。夜の帳が下りる頃、濡れたレールにライトの光を映して、ゆっくりと気動車が滑り込んで来た。 単調なリズムで地面を叩く雨音と、湿気の中で生命を謳歌するカエルの鳴き声の間に割り込むように、DMHのアイドリング音がしばし周囲を支配する。 自然と鉄道の音が織りなすシンフォニーを聞きながら目を閉じれば、かつてローカル線を乗り歩いた頃の情景が脳裏に浮かんでくる。 どうにも写欲の湧かない梅雨時だからこそ、こうして少年時代の旅を思い出しつつちょっとオシャレな写真を狙ってみるのも悪くない。

例年以上に早い入梅が宣言された今年。南からの太平洋高気圧の張り出しが強いため梅雨明けも早く、暑い夏になるとのこと。 毎度の眉唾長期予報がどこまで信じられるかは微妙だが、とりあえず向こう1ヵ月は夜討ち朝駆けの鉄ちゃん行に束の間の休息が入る。 こんな時は、趣向を変えてバルブ強化月間(笑)にするのもオツなもの。 紫陽花に見送られながらブルーモーメントに消えて行ったゴーニーのテールランプを思い出しつつ、そんなことを考えている。



【7月の表紙】

2012・07・22 奥羽本線 鹿渡−鯉川 (PENTAX67TTL smcPENTAX400oF4ED RVP50(+1))
「梅雨明け十日」とはよく言ったもので、この日も朝からクリアーな青空が広がった。さて、今日の「あけぼの」はどこで頂戴しようか…。 第一候補は、日の長い時期でないと正面に陽が回らない森岳ICのオーバークロス。窓全開で風を浴びながら田園地帯を走り、早々に現地に三脚をセットした。 高速は目の前だし、追っ掛けには最適。少々機材を展開しても大丈夫だろう。欲張ってペンタ400にD800+200o、それに別途500oを装着したF5も据える。 7時20分過ぎ、真紅のカマを先頭に、堂々9連の寝台車が現れた。

しかし、現像が上がってみると、思ったより顔が影っていた。よく見積もって、折妻の半面カツ当たりといったところ。 確かに夏至からはや1ヵ月、確実に日の出の方角は南に傾きつつあるのだ。カレンダーを見ても、すでに今年も後半戦。 季節はこれから夏本番だが、日照限界からシーズンオフとなる撮影地も増えてくる。 残り僅かの朝練期間、梅雨がいつまで続くか不安もあるけれど、曇天と休日出勤にかこつけて鈍っていた体にムチを入れ、 鮮烈な光を浴びた絶品の鉄道情景を少しでも多く拝みに行きたいものである。



【8月の表紙】

2007・08・05 飯田線 天竜峡−千代 (PENTAX67 smcPENTAX400oF4ED RVP50(+1))
EF58という機関車が本線を去ってからもう5年の月日が経つ。 90年代半ばから撮影を始めた私は、当然本当の現役時代など知る由もなく、JR化後のイベント運転の先頭に立つ姿を時折目にするくらいがせいぜいだった。 しかも、ネタに疎い性分から特定機を徹底的に追い掛けるようなこともできず、チャンスがあったら撮りに行く… といったスタンスでしか彼らに接していなかった。 今から思うと実にもったいないことである。

8月初旬、157号機が飯田線で工臨を牽くという情報を得た。 ロクイチ・ゲニニ・イゴマルと合わせたゴハチ四天王?の中で唯一青塗装を纏うイゴナナは、我々世代にとっては最もリアリティのあるカマである。 数ヵ所で追っ掛けて、夕方、天竜峡の俯瞰アングルに機材をセットした。眼下には渓谷に架かる鉄橋が斜光線に浮かび上がっている。 間もなく今日の主役が現れるはずだ。67とF5、2台のレリーズを握りしめて、じっとその瞬間を待つ。来た! ゆっくりと檜舞台に登場したEF58 157に、そっと1枚きりのシャッターを切る。V! 充実した撮影とともに帰り際にアングル至近の果樹園で頂いたみずみずしい桃の味が忘れられない。



【9月の表紙】

2003・09・23 東北本線 越河−白石 (MamiyaM645SUPER SEKOR A150oF2.8 RVP(+1))
山間部は深い霧に包まれていた。久しぶりの晴れ予報の休日に実家の車を駆って深夜の4号線をひた走り、周囲が薄明るくなるころに名所越河に到着。 長雨の間にいつしか季節は進んでいたらしい。 早朝の冷え込みが、色づく田んぼを包む白いベールを生み出していた。 視界はほとんど利かないが、まぁ何とかなるだろう。 本命の583系「白虎」まではまだ3時間以上もある。何より朝霧は快晴の予兆というではないか!

7時近くなって少しづつ霧が晴れてきた。時折低い日差しが差し込んで画面にコントラストをつける。もうすぐ「北斗星4号」が上ってくる時間だ。 「白虎」と並ぶ今朝のメインターゲット。 「はくつる」無き後、最後に残された北行きブルトレの雄である。さぁ晴れろ、晴れてくれ! だが願い空しく、スッキリした青空は覗かないまま山影から2灯のライトが現れた。しかし、かえってそれが功を奏したようだった。 仕上がりを見ると、秋の風情を感じさせる程よい霞が、朝靄を切り裂いて峠に挑む寝台列車の姿を上手く引き立ててくれていた。



【10月の表紙】

2007・10・13 島原鉄道 堂光寺−浦田観音 (NikonF5 AFNikkor80-200oF2.8 RVP100)
10月ともなれば田んぼの風景も最終章。たわわに実った稲穂を刈り取り、はさ木に掛けて天日干しする“はさ掛け”の光景が見られるようになる。 実りの季節の風物詩として列車と組み合わせると、これが実にいい味を出してくれる。 柔らかい日差しを浴びて刈田に長い影を落とす独特の造形が、長閑な中にどこかもの悲しさを漂わせる風情を見事に演出するのである。 これぞローカル線の秋。我が心象風景に欠かせないアイテムである。

この日は鉄道の日に合わせたイベントとして島原鉄道の南目線にキハ20が入線した。季節はまさに収穫の頃。沿線のあちこちにコンバインの音が響いていた。 午後から訪れた浦田観音の田んぼアングルも、ちょうど農家の老夫婦がはさ木に穂を掛けている最中だった。 近くで買ってきた缶コーヒーを差し入れてご挨拶。快く撮影許可をいただいた。長めのレンズで敢えて編成はカット。 農作業に焦点を合わせ、キハはバックにアウトフォーカスであしらおう。 間もなく、聞きなれたエンジン音を響かせて2両の気動車がファインダーに現われた。



【11月の表紙】

2004・11・27 小湊鐡道 上総久保駅 (NikonF4s AFNikkor20-35oF2.8 RVP100)
田んぼの中の小さな無人駅。屋根などない簡素なホームの片隅に、黄金色の葉をつけた銀杏の大木がぽつんと1本、青空のキャンバスに新たな色を重ねる筆先のように立っていた。 快晴・無風で紅葉もピーク、こんな条件に恵まれた週末なのに、他に撮影者の影は見えない。 誰に気兼ねすることなくポジション取り。光線状態と構図のバランスを考え、広角20oで思い切って寄ることにした。 間もなく、3連に増結したディーゼルカーが到着。乗降客ゼロのまま、列車はエンジンを吹かしながらゆっくりとファインダーを通り過ぎて行った。 昨今の喧騒からは想像もつかない、上総の奥地がまだ長閑だった9年前の秋の一コマである。

今年も各地から紅葉の知らせが届く季節になってきた。 頻繁に通過した台風の影響が心配だったが、幸い夏の日照(そんなにあったか?)と10月下旬以降の冷え込みで色づきは良いと聞く。 ここ数年で被写体は激減してしまったけれど、探せばタラコの「只見紅葉号」、吾妻渓谷の湘南色115系、甲斐路の山スカなど、まだまだ名優たちは錦の舞台で我々を待っている。 この秋はそんなシーンを幾度目に、そしてフィルムに焼き付けることができるだろうか。



【12月の表紙】

2007・12・02 飯山線 信濃白鳥−平滝 (PENTAX67 smcPENTAX90oF2.8 RVP(+1))
巷にクリスマス・ソングが流れる頃、我々の間には「試雪●●レ、△×日に運転」という運行情報が飛び交うようになる。 関西にいた頃は中国山地を越える木次・播但、関東に来てからは北信地区の大糸・飯山や南東北の米坂・磐西がその舞台。 雪国の鉄路に朱を纏った冬の使者が姿を現すと、いよいよ長く厳しい季節の到来である。秋と冬の境目の微妙な空気に誘われるように、紅葉散り行く線路際にDLの勇姿をよく追ったものだった。

この年は、飯山線のDD16の試運転情報をキャッチした。早朝の蓮−替佐界隈こそ信濃川から立ち上る深い霧に視界を遮られていたが、追っ掛けるにつれて 白いベールは消え去り、県境の信濃白鳥まで来るとスッキリ青空が抜けるようになった。 普段は小高い畦から望遠で編成を打ち下ろすこのポイントだが、今日は葉を落とした小山を入れて標準で狙ってみることにする。 間もなく、初雪残る晩秋の里にラッセルヘッドも誇らしげなチビロクが現われた。それから数年後、飯山の排雪はモーターカーに取って代わられた。 北信濃に冬を告げるこの光景はもう二度と見られない。



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