鉄路百景 GALLERY15. アルプス越えの羊腸の道〜遥かなるゴッタルド峠〜

GALLERY15 アルプス越えの羊腸の道〜遥かなるゴッタルド峠〜

2.ティツィーノの青空

その晩盃を共にした愛知のお2人は、以前掲示板に書き込んで下さったみん☆みん氏と関西-D.W先輩の海外鉄ちゃん仲間K氏であった。御両人とも当サイトをご覧くださっ ているとのことで、時差7時間もあるヨーロッパのど真ん中まで来て、あらためて世界の狭さを痛感することになった。袖触れ合うも多生の縁。ありがたいことに翌日から K氏の運転するレンタカーに同乗させていただけることになった。

2016・08・15 HOTEL GERIG i phone5
とにかく物価の高いスイス。今日は初日ということでレストランでディナーと洒落込んだが、長居して杯を重ねるといくらかかるかわからない(汗)。早々に部屋飲みに切り替 え、K氏の部屋で鉄話を肴にご当地ワインで盛り上がるうち、ヨーロッパの夏の遅い夜もいつしか更けていったのであった。



翌朝のヴァッセンは、青空も見えるものの低い雲が流れる怪しい天気。晴れそうといえば晴れそうだが、曇りそうといえば曇りそう。ややリスクの高い空模様である。ならば、 夏場によく晴れる地中海性気候に期待してアルプス以南のイタリア語圏、ティツィーノ州にに逃げようではないか!朝食のパンとチーズを頬張りながら作戦会議。K氏の提案に 乗る形で、ゴッタルド峠南側のジョルニコ3段ループに向かうことになった。

ヴァッセンから高速でしばらく進むと、道路のゴッタルドトンネルに入る。15年ほど前にトンネル内部で渋滞中に火災が発生する事故があり、以来この区間だけは片側1車線の 対面通行、その上進入規制の信号がついたため時間帯によっては渋滞のメッカになっているという。幸い今日は朝早く出たので南行きは順調。全長約17Kmのトンネルを抜けると、 そこは見事なまでの安定した青空であった。

ゴッタルド峠の撮影地はトンネル北側のヴァッセンが有名だが、南側のアイロロから下りてくる区間も2ヵ所のダブルループを持つ魅力的な線形である。特にファイド−ビアス カの通称“ジョルニコ3段ループ”は、下段を行く列車の上に中段の線路、そして上段のアーチ橋がきれいにフレーミングできる絶好の撮影地。今日の目標はこのジョルニコ界 隈でIRと貨物を押さえることである。

16・08・16 SBB Gottardo Bahn Faido−Biasca NikonD800 SEKOR80oF2.8 ISO200
車は右へ左へカーブを曲がりながら谷に向かって急勾配を下り、寂れた細い道で川を渡る。 道端の草は伸び放題だが、しばらく進むと開けた駐車スペースに出た。信号所でもあ ったのか、線路際に使われていない詰所のような建物が残る。その脇を抜けるときれいに草が刈り揃えられた庭のようなスペースが広がった。ここが所定の立ち位置。K氏によ ると、例年になく草が処理されていて絶好のコンディションとのこと。ちょうど谷間に陽が射し始めた。早速中望遠ヨコ位置で構えてみた。

線形としては、神保原の横アングルの上に湯檜曽のループがダブルで載っている感じ。バックの目障りな高速道路ですら、高尾−相模湖風といえばそう見えなくもない。そこを ナナゴのような赤いD級電機が客車を引いて行き来するのだから、国鉄時代に間に合わなかった世代としては垂涎ものの光景である。しかし、切り位置通過直前に北行きが接近 …。嫌な予感は的中し、1発目は裏カブリとなってしまった。

16・08・16 SBB Gottardo Bahn Faido−Biasca NikonD800 AFNikkor50oF1.4 ISO200
時間が経つにつれ、バックのアーチ橋の陽の回りが良くなってくる。みん☆みん氏がtwitterで検索すると、ヴァッセン界隈のJapanese鉄ちゃんから、貨物通過のツイートありと のこと。小1時間もすれば重連貨物は上越国境もとい、アルプス山脈を越えてこの場にやって来るはずだ。

ゴッタルド峠に挑む貨物列車は、Re420とRe620の重連運用が基本である。D級の420は4軸中4軸駆動なので4/4、F級の620は6軸中6軸駆動で6/6と言う。重連は両者 を足して、通称10/10。長短相似形の真紅の機関車がタッグを組む様は、子どもの頃に本で眺めた板谷峠のED78&EF71コンビを彷彿とさせる。古の名シーンよ再び!D5は70 -200oを付けて中望遠で、解像力番長のD800は標準で山の稜線と夏雲を入れ、2丁切り体制で狙いを定めた。

16・08・16 SBB Gottardo Bahn Faido−Biasca
NikonD5 AF-SNikkor70-200oF2.8VRU ISO200
撮影するうち、やはりバックの高速道路が気になってきた。これをどうにかカットできないものか。線形は神保原風だし、カブりついてみたらどうだろう? 日本でよくやる長玉 顔面構図を吟味する…と、So good! 緩やかなSカーブの真後ろに中段・上段の線路が折り重なるようにピタリと収まる。架線柱のビームのスパンにだけ注意して立ち位 置を決めると、190oでピッタリのアングルが出来上がった。D5に望遠ズームで動態予測を利かせれば、もう勝負は勝ったも同然である。画質重視の単玉のみでラインナップを 組むつもりだったが、念のために70-200oを忍ばせておいたのが功を奏した。さぁ来いインターレギオ!上段を通過するRe420を見て、レリーズを握る手に力が入った。

16・08・16 SBB Gottardo Bahn Faido−Biasca NikonD5 AFNikkor50oF1.4 ISO200
昼からは、光線を考え上段のファイド寄りにあるカブりつきポイントに転戦。バックにアイロロ付近の山並みが、カーブの先にチラリと6連アーチのコンクリ橋が入るのがミソで ある。国内のようにすぐに粋がって無謀な行為に出るワカモノも、些細なことにすぐ目くじらを立てるマナーファシストもいない。全ては自己の判断と責任である。我々は架線柱 の脇に密集して三脚を立てた。機材はD5に50oとD800に35oの2台切り。高速連写のD5をアバウトに切りながらD800の一発勝負で迎え撃つ。

1時間ほど経つと、サイドにもきれいに光線が当たり始めた。間もなくIRの通過時刻。だが、これまたみん☆みん氏のツイッター情報によると、郵便列車と貨物も続行で南下し ているという。勾配と列車種別を考えると、順番が前後することも十分考えられる。さぁどうなる?時折太陽の周りをかすめる雲にヒヤリとさせられるが、まずはRe420の牽く IRが先陣を切ってやって来た。

16・08・16 SBB Gottardo Bahn Faido−Biasca NikonD800 AF-SNikkor35oF1.8 ISO200
IRの3分後に現れた郵便列車は、カマ込みわずか3両のミニ編成。赤い機関車と黄色い有蓋車の組み合わせは緑の木々と青い空によく映えた。そして続いてがRe10/10の重連 貨物。ヴァッセンからの報告では、先頭のRe620はスイス国鉄唯一の原形原色ガマ11663号機、通称“Eglisau”。これは萌える!

ヴァッセン通過から約50分、そろそろである。一度光線を遮った巨大雲もいつしか割れて、再び陽光が燦々と降り注ぎ始めた。「今来い、今来い!」不安定な雲の流れに祈るよう な気持ちで待つことしばし、ミドリガメとも言われる濃緑色の車体がカーブの奥から姿を現した。確かにライトも原型の丸型ライト。更新仕様の角目もなかなかに締まった表情で はあるが、やっぱり鉄は原型が一番である。

16・08・16 SBB Gottardo Bahn Faido−Biasca NikonD5 AFNikkor50oF1.4 ISO200
アテもなくしばらく粘ると、今度はオレンジ色のドイツ国鉄DB185形重連の貨物が登場。ヨーロッパの中央に位置するスイスには、多くの国から国際列車がやって来る。特にゴッ タルド・ルートはドイツからイタリアに抜ける最短ルートのため、このドイツ国鉄のカマはよくお目に掛かる。といっても、実はこれ、、ボンバルディア社製TRAXXブランドのセミ・ オーダーメイド機関車で、スイス国鉄Re485形も同型の色違いである。高性能の汎用デザイン車輌は合理的ではあるのだろうが、合理性とは対極にある趣味的観点からは、面白み に欠けて見えるのは否めない。

この後はジョルニコ3段ループのアウト側立ち位置に移動するも、次第に雲が増えてきてマンダ〜ラにて終了。回復の見込みもないため、早々の撤退を余儀なくされることになった。 とはいえ、緯度の高いヨーロッパの急峻な山に囲まれた谷底のアングルである。そもそも撮影可能時間帯自体が短い。これは、街に出て買い出しでもして、ハムとチーズにワインで 夜を楽しめというお天道様の御宣託なのかも知れない。我々はゴッタルドトンネルの渋滞にハマりながら、再びヴァッセンの集落へと引き返した。



翌朝もヴァッセンはハッキリしない天候。空を見るに、回復の可能性は昨日よりさらに低そうである。賭けて残ってもよいが、19日のVSOE(ヴェニス−シンプロン・オリエントエ クスプレス)はどのみちここで撮る予定。だったら貨物もIRもそこで一網打尽にすればよいだろうと判断し、今日も地中海性気候のアルプス以南に逃げることにした。クロワッサン にハムとチーズの朝食をゆっくり頂いてから8時過ぎに出発。平日は毎朝7時半には出勤し、鉄に行けば毎回未明から行動する日常に比べると、天国のようなまったり感である。

それにしても、今日の雲は手強かった。ゴッタルドトンネルを越えてもジョルニコ3段ループの最寄りインターを過ぎても、昨日のような明るい青空は見えて来ない。そこで、ヨー ロッパ鉄ちゃん歴豊富なドライバーK氏の判断で、イタリアとの国境近いルガーノ付近まで南下することになった。ルガーノ−カポラゴ間で湖をバックに狙えるアングルがあるとい う。ほとんどのIRはこの手前のベリンツォーナからロカルノに入ってしまうが、昼の1本だけはイタリアとの境界駅キアッソまで行く。これ1本でも晴れで仕留められれば、遠征 する甲斐もあるというものである。

東海道本線の浜名湖の鉄橋の如く、いや、お洒落に言うならヴェネツィアのサンタ・ルシア駅に向かう鉄橋の如く道路と並走する鉄道橋を横目にルガーノ湖を渡り、湖の西岸を南下 すること数分、コンビニ併設のガソリンスタンドのすぐ脇が件の撮影地であった。高い山に遮られて、10時も近いというのに線路はまだ山影の中。それでもあと1時間もしないうち にお店は開いてくれるだろう。バックの湖面を入れてリゾート風の背景で構図をまとめようとすると、レンズは35oの一本勝負。すぐにアングルは決まった。あとは獲物が現れるの を待つばかりである。

16・08・17 SBB Gottardo Bahn Capolago−Lugano NikonD5 AF-SNikkor35oF1.8 ISO200
日本のL特急(懐かしい!)並みに1時間に1本の割合でやって来るのが、イタリアはミラノに向かうユーロシティ(EC)。流線型の車体を持つETR610は、スイス国鉄仕様が秋田 新幹線風の白地に赤帯、イタリア国鉄仕様がウルトラマンよろしく銀に赤帯という風景映えする装いで、デザイン的塗色的に悪くない。だが、ここまで来たからには、撮りたいのは 機関車である。Re420のIRを、我々は今か今かと待ち続けた。

16・08・17 SBB Gottardo Bahn Capolago−Lugano NikonD5 AF-SNikkor35oF1.8 ISO200
しかし…持参の時刻表を凝視して愕然とした。唯一のキアッソ行きIRはシーズン限定の運転で、今日は設定なし!一同肩を落としてガッカリである。だが、これですごすごと引き 揚げては惨めさだけが残ってしまう。どうせルガーノ以北は曇り模様。アテもなく貨物でも待ってみようと、光線状態が悪くなるまでここで粘ることにした。

淡い期待を打ち砕くように、数時間待機して現れたのはRe420の単機回送1本のみ。おかしい。ドイツ〜イタリア間の物流のメインルートたるゴッタルド線でこんなに貨物列車が来 ないことなんてあるのだろうか?謎は深まるばかりである。いい加減光線もサイドが薄くなってきた。そろそろ撤収か…相談を始めたところに赤い機関車が現れた。「?」突然の本 命の登場に慌てつつも、とにかくシャッターを切る。後ろに続くは紫色の怪しいカラーリングの客車5両。K氏に聞くとドイツ国鉄の所有する波動用客車らしいとのこと。まぁ、所定 のIRは撮れなかったが運よく団臨をものにできたということか。一応の戦果を挙げ、我々は納得してこの場を去った。

  
 左右とも:16・08・17 Bodio FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
ここ数日あまりにも貨物列車の本数が少ないため、帰り際にトンネル南側のボディオにある事務所で詳細を聞いてみることにした。一応これまで得た情報では、9月半ばくらいから 約半数の貨物をベーストンネルに回すとのことだったが、現地で見る限りではすでにトンネル経由の列車が増えているのではないかと考えられるからである。だが、山懐の巨大な岩 壁に面したコンクリ造りの事務所では当を得た回答を得ることはできず、ただモニュメント的に飾られている巨大な掘削機を眺めただけで終わってしまった。

16・08・17 Erstfeld FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
次にトンネル北側のエルストフェルトにあるトンネル記念館へ。そこのスタッフなら何かを知っているかもしれないという一縷の望みに賭けてオレンジ色の瀟洒な建物に入る。ヴィ ルヘルム=テル像からゴッタルド線で活躍する機関車の模型、出土岩石に至るまで一通りの展示を見学してから受付の女性にベーストンネルの使用開始時期について聞いてみると、 9月半ばからの使用開始というのが正式なプレスリリースで我々もそれ以上のことは知らない…とのことだった。結局新たな情報を得ることなく撤退。近くのCOOPでワインとつまみ を仕入れて、ヴァッセンのベースキャンプへとすごすごと引き揚げたのだった。

 
左右とも 16・08・17 Wassen FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
今晩から私はホテルを移動。このツアーを計画した段階ではVSOEの経路を正確に把握できておらず、隣国オーストリアのブレンナー峠経由と踏んでインスブルックに宿を予約 していた。が、6月・7月に出撃した先人たちの情報によると、VSOEは昨年同様ゴッタルド峠を通るらしい。貨物とIRだけ撮ってスイスの地を離れるというわけにはいかな くなり、急遽追加で別のホテルを押さえたのだった。

ホテルクローネは、ヴァッセンの表通りを歩いて数分、ゲーリッヒから100mほど隣にあった。こじんまりとした、白壁が瀟洒な建物である。ドイツ語で印刷してきた予約票を見せ て部屋に案内してもらう。木造の質素な部屋であった。

16・08・17 Wassen FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
今日も夜はK氏・みん☆みん氏と部屋飲みでワインを味わうことになっている。両氏の泊まるゲーリッヒに行く前に、初日から気になっていたヴァッセンの教会に立ち寄ってみた。 キリスト教文化圏では街や村に必ず1軒はある教会。フィレンツェに代表されるような大規模なドゥオーモも魅力的だが、こうした小集落の小さな教会にも地元の人々のささやかな 信仰心が見てとれて趣がある。赤い屋根の聖堂に入り、ツアー後半の戦果を祈った。



未明に目覚めると、外は雨模様。早々に酔っ払って布団に入ったため、時間はまだ4時前である。だが、日々4〜5時間睡眠で14時間労働に勤しむ身からすれば、7時間近く寝てし まうともはや瞼を閉じることはできない。まったり読書に耽るうち、周囲が薄明るくなってきた。今日も天気は怪しそうだということで、K氏御一行と相談の上、またも峠を越えて 南側に抜けることになった。

さすがに撮影も3日目になると慣れたもので、「行き先は天気に聞いてくれ」式の国内的行動パターンもとれるようになってくる。とりあえず雲が切れるまで南下することにして走 った結果、再びジョルニコループにやって来てしまった。

16・08・18 SBB Gottardo Bahn Faido−Biasca
NikonD5 AFNikkor300oF4 ISO200
気圧配置や衛星画像はわからないが今日の雲はなかなか手強く、ここまで来ても晴れゾーンは少ない。1本目のIRは無事に撮れたが、次第に日差しが弱ってきた。いい加減200o の面タテも飽きて、次は上段アーチ橋は敢えてカットし300oタテでアップダウンを狙おうと考えていたのに、これでは果たして撮らせていただけるのやら…。 1時間後、上段に現 れたRe420は曇天の中アーチ橋を横切った。これはダメか。半ば諦めつつ空を見上げると、運が良ければ雲の切れ間が重なりそうな雰囲気。列車が中段に来る頃にはマダラ模様く らいにはなってきた。これはいけるか!?数分後、レールが振動し始める頃には、背景を含めて画面内は完全バリ晴れ露出!我ながら素晴らしい勝負強さである。直線区間に入り登 り勾配を駆け上がって来る赤い機関車を高速連写で捉えた。

しかし、日頃の行いに自信のある?我々の神通力も、さすがに昼近くなると尽きてくる。午後はまったりと観光でもしながら早めに帰投し、明日のVSOEに備えることにした。向 かったのはアンデルマット。ゴッタルド峠を越えてドイツ−イタリアを結ぶ南北のルートと、フランスからオーストリアに抜ける東西のルートが交わる古くからの交通の要衝である。 地図で見ると、ゴッタルドトンネルのはるか上方をグレッシャー・エクスプレス(氷河急行)の走るマッターホルン・ゴッタルド鉄道(MGB)が横断している。トンネル入り口のゲシ ェネンからアンデルマットまではMGBの支線が出ていると旅行ガイドには書いてあるが、地形・線形からどんなに想像力を働かせても平たい国の平たい顔族にはリアルな情景が皆 目想像もできなかった。

スイスには幾度も撮影に来て旅慣れているK氏のご案内で、ゲシェネンから急勾配を登る。道路からロイス川の急流を挟んだ対岸には、ガイド本にあったMGBの支線が見えた。そ の勾配の凄まじいことといったら、もはや鉄道というよりも頂上に向かうジェットコースターである。レールをよく見れば、日本では碓氷峠の幻となったラックレールが線間を這っ ている。まさか大井川鉄道井川線よりも前にヨーロッパの山奥で最初にアプト式鉄道を目の当たりにすることになろうとは…。

だが、凄まじいのは線路の勾配だけではなかった。道路の勾配もなかなかのものである。アルプス山脈の北斜面を九十九折で登るうえ、落石を警戒してかシェッドか連続して続く。 例えるなら日光のいろは坂のようなヘアピン連続の線形に、大糸線沿線の国道148号平岩−小滝間のようなシェッドが延々覆い被さっているような感じである。そんな過酷な地形を 克服するかのように、時に大型クレーンが道路の補修のために谷間に資材を運び上げている。山岳国家スイスの土木技術の高さに、我々は思わず目を見張った。

  
 左右とも:16・08・17 Andermatt付近 悪魔の橋とアルプス越えの旧道 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
そんな急勾配を登り詰めたところにあるのが「悪魔の橋」と呼ばれる石積みのアーチ橋である。13世紀、雪解けの急流に阻まれてシェレネン渓谷に橋を架けてロイス川を渡る計画は 何度も挫折していた。ところがあるとき村人の前に悪魔現れ「橋ならば架けてやろう、その代わり最初に渡るものの命は引き換えにいただく」という契約を持ちかけた。村人たちは それを受け容れ橋は無事完成したが、最初に誰が渡るのか? 村人たちは機転を利かせ、1匹のヤギを生贄に送り出した。悪魔は怒り狂い、橋を壊そうと巨岩に手を掛けた。そのとき、 一人の老婆が岩に十字架を刻んだところ、悪魔はそれを掴めなくなり、岩はゲシェネンの先の谷間に落ちていったという。この伝説から、ここに架かる橋は「悪魔の橋」と呼ばれる ようになった。ちなみに、従来の木橋を架け替えて本格的な石積みの橋ができたのは16世紀のこと。19世紀末に初代は嵐で流され、現在見られるのは2代目の橋である。

軽く予習をしていたおかげで、ホンモノを見たときの感激もひとしお。シェレネン渓谷の急流、切り立った岩肌…伝説とはいえ、人々が悪魔と契約したくなる気持ちもよくわかる。 こんな厳しい地形によく架橋したものだとあらためて感心してしまう。せっかくの海外旅行、悪天候の日はこうして鉄を忘れ、観光を楽しむのも一興だろう。

 
左右とも:16・08・17 Matterhorn-Gotthard-Bahn Andermatt FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
この後は、MGBのアンデルマット駅へ。SBBがゴッタルドトンネルで直下300mをぶち抜く現在、東西交通の十字路としての役割は失ってしまったが、中部スイス観光の拠点で あり、グレッシャーエクスプレスの主要停車駅でもあるこの地は、なお多くの外国人客で賑わいを見せていた。何しろ駅の売店は、日本語で品定めをする関西人と思しきオバチャ ン達で大混雑。さらにホームに出ると、線間に立てられた看板には“Do not cross the railway lines!”という表記の下に、日本語で「線路を横切ってはいけません!」との注意 書き。これには我々3人、苦笑いを隠せなかった。

16・08・18 HOTEL Krone i phone5
散策をそこそこで切り上げ山を下る。明日に備えて撮影地を1箇所下見してから、いつものようにエルストフェルトのCOOPでワインとつまみを仕入れ、早めに帰投。やはりヴァッ センは雨だった。ホテルの窓から外を見ると、低い雲が霧のように谷間を覆っていた。

 
左右とも:16・08・17 HOTEL GERIG i phone5
明日はいよいよVSOEの運転日!泣いても笑ってもヴァッセンで一世一代の大勝負である。K氏御一行も私も今日がゴッタルド最後の夜。そんな日は前夜祭で願を掛けるに限 る。ホテルゲーリッヒのレストランで3人で杯を傾けた。私のメニューが初日と同じ気がするが、カツ風の料理で願を掛けようと思ったら同じものが出てきてしまっただけであ る(汗)。天気予報は昨日から格上げされて晴れマーク。決戦の金曜日、負けられない戦いは、もう目の前である。



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