鉄路百景 GALLERY15. アルプス越えの羊腸の道〜遥かなるゴッタルド峠〜

GALLERY15 アルプス越えの羊腸の道〜遥かなるゴッタルド峠〜

1.ヴァッセンの丘を目指して

ここ数年で撮りたい被写体が目に見えて激減した。各地に残っていた国鉄特急色の優等列車や青い寝台車を連ねた夜行列車は改正の度に姿を消していき、2016年3月の ブルトレ消滅でついに一つの時代が終わった。さて、この夏は何を撮ろう?困惑していた春先に、一つの示唆を与えてくれたのがRM392号であった。そこで紹介されて いたアメリカ・コロラド州の保存SLのカットはアングル・被写体共に非常に刺激的で、メディアに溢れるつまらぬ写真に食傷気味だった私の写欲を久々に強く掻き立 ててくれた。

海外鉄か…。過去を振り返ると、鉄道の撮影のみを目的に海を渡ったのは2回。いずれも中国で、2000年の秋には当時前進型最後の楽園として話題だった内モンゴル自 治区の集通鉄路へ、2010年冬にはロシアとの国境近い北辺の炭鉱に生きる上游型を追って黒竜江省を訪れた。それ以来、もう5年もパスポートをもって鉄ちゃんに出て いない。久々に地球規模の大遠征も悪くないか!

思い立ったが吉日、さっそく海外鉄の大家でもある関西-D.W先輩に相談を持ち掛ける。すると「アメリカなんかより今行くべきはヨーロッパである」との返答が返っ て来た。近々アルプス山中をぶち抜くゴッタルド・ベーストンネルが開通する。すると客貨ともに新線を経由するようになり、従来からのΩカーブとループ線を組み合 わせて難所を超えて来た峠道は街道の座から転落、幾多の名シーンが二度と見られなくなる!との煽りを頂戴した。昨年秋、こうした大変革を察知した先輩は、アルプ ス越えの名所ヴァッセン(Wassen)のお立ち台にヴェニス・シンプロン・オリエントエクスプレス、通称VSOEを撮りに行ってきたという。臨場感たっぷりに電話口で 語る先輩の名調子にすっかり感化され、数日後には近くのHISでスイスまでの航空券の見積もりを依頼していた。

スイスのフラッグキャリア、スイスインターナショナルエアラインズのチューリヒ直行便は、お盆前後は往復26万円。さすがにこれは躊躇した。が、最安値で叩いても らうと、キャセイパシフィックの香港乗り継ぎなら往復14万円也。そのうえ、成田−香港のCX521便は普段のトリプルセブンではなく、シップチェンジで引退間際のジ ャンボが登板。これは行くしかないだろう!747の3文字に思わず胸が高まり、その場でチケットを押さえてしまったのだった。

2016・08・31 成田空港 NikonD5 AF-SNikkor300oF2.8ED ISO200
いざ海外となると、悩むのは機材の選定である。機動性や画角のレンジ、治安とか空港のX線検査などを考慮すると、今回は自分のポリシーを捨てて67は諦めた方が 良さそうだ。三脚も、ハスキーよりはヘッドが外せてスーツケースに入れられるものがベター。バッグも天気の悪い日は観光を楽しむかも知れないので、マウンテンダッ クスのような無骨なザックではなく、ちょっとオシャレな肩掛けのものが好ましい。 思案の末に、カメラはD800と新規導入のD5、レンズは描写性重視の単玉攻勢で28 oF1.8、35oF1.8、50oF1.4、ペンタ90o、135oF2、マミヤ200oを出張用のドンケF2に詰め込み、念のため300oF4と70-200oVRUを小型のリュックに忍ば せることにした。三脚は、昨冬つい出来心で買ってしまったジッツォのG312。普段の私とは全く違う、海外仕様で準備を整えた。



今回の旅の目的地、スイス連邦のウーリ州とティッツィーノ州との間に立ちはだかるゴッタルド峠は、同国発祥の地とも言うべき場所である。ドイツとイタリアを結ぶ 最短経路として、ロイス川の急流に架橋してこの峠道が開削されたのが13世紀のこと。 やがてここは、12世紀以降活性化しつつあった遠隔地交易の主要ルートとなり 峠の北側のウーリ地方は次第に経済的に豊かになっていった。そこに目を付け、支配下に置こうとしたのが神聖ローマ帝国の有力領主の一つハプスブルク家であり、こ れに対抗するため、13世紀末にウーリ・シュヴィーツ・ウンターヴァルデンの3州が永久同盟(盟約者同盟)を結成。1315年のモルガルテンの戦いでハプスブルクの精鋭 騎士軍を破って現在のスイスの原形が成立したのである。

  
 左:2016・08・18 ロイス渡河最大の難所、悪魔の橋 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
 右:2016・08・17 建国の英雄ヴィルヘルム=テル像  FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
ロッシーニの戯曲で知られる「ヴィルヘルム=テル」の伝説はこの時代を舞台にしており、彼が息子の頭上に載せられたリンゴを射抜き、ハプスブルクの代官ゲスラーを 倒したことが反ハプスブルクの狼煙を上げることにつながったということになっている。その後、この3州の永久同盟にルツェルンやチューリヒ、ベルンといった有力都 市が加わっていきスイスという国の形ができあがってきたこと、スイスという国名がシュヴィーツに由来することなどを考えると、ゴッタルド峠なくしてスイスの誕生な しといっても過言ではないだろう。



出発は8月14日。夏期講習も、部活の合宿の引率も、学校説明会の出張も終えた。小海の旧客返却回送も、津軽の立佞武多臨も、583系の「あいづ」も撮った。出発前に国 内の課題には一通りケリをつけたつもりである。いや、敢えて言うならば、土曜下り〜火曜上りの「カシオペア・クルーズ」だけは一度も拝むこと叶わなかったがそれは別 に構わない。上越国境越えの銀色ステンレス客車なんかより、リアルアルプス越えのリアル・オリエントエクスプレス!自分にそう言い聞かせ、これから始まる未知なる 旅への不安を打ち消した。

 
左右とも:2016・08・14 成田空港 FUJIFILM 100S FUJINON23oF2 ISO200
8月上旬から何度か成田にキャセイジャンボを狙いに来ていたが、毎度毎度のDelay祭でテイク・オフは日没直後。未だにまともな離陸カットは撮れていなかった。さ て、今日はどうか。出発はやや遅かったが、日のあるうちにA滑走路南端までタキシング。ターミナルを右手にふわりと機体が浮き上がったのは、17時50分であった。 雲を突き抜けて安定飛行に入ると、間もなく沈みゆく夕日が窓に映る。赤く染まる雲海を眺めながらの機内食は、まるで鯨波で黄昏時を迎える「トワイライト・エクス プレス」で楽しむディナーのようであった。ま、乗ったことはないけれど…。

 
左:2016・08・14 CX521 B747機内 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO250
右:2016・08・14 CX521 B747機内 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO640
ほぼ予定通り、20時40分過ぎに香港着。約3時間の待ち合わせで、チューリヒ行きのCX383に乗り継ぐ。トランジットの手続きを済ませ、とにかく広い香港空港のコンコース を探検するが、残念ながら夜も更けてきたこの時刻、店もほとんど閉まっていて退屈この上ない。ソファーでくつろぎ、こんなこともあろうかと持参した本を読み進めるうち、 搭乗手続き開始の時刻になった。

 
左右とも:2016・08・14 香港国際空港 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO800
23時50分、トリプル7の機上の人となり、住み慣れたアジアを後にする。いきなりのウェルカムワインでいい気持になっていると、深夜にまたも機内食。時間の感覚もメチャ クチャなまま、とりあえずアルコールの力を借りて目を閉じる。きっと次に目覚めた時には異国の地に近づいているはずだ。だが、お天道様を追い掛けるように進むヨーロッ パ便では、飛べども飛べども夜が明けない。幾度も目覚めては本を開き、ワインを頼んでは酔っ払って眠りに落ちる…の繰り返し。いい加減廃人になるのではないかと思い始 めた頃、ようやく窓の外が薄明るくなってきた。

 
左右とも:2016・08・14 CX383 B777機内 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO800
この旅3回目の機内食を摂り終わる頃、ようやく飛行機は高度を下げ始めた。モニターに映し出されたマップでは、オーストリアからスイスに入る国境付近を飛行している模様。 雲の切れ間から眼下に町並みが見えてくる。6年前にツアー参加でイタリアを観光して以来久しぶりのヨーロッパ。山と湖に囲まれた瀟洒な街並みに思わず胸が躍る。6時30分、 チューリヒ国際空港に到着。天気は雲多めながら晴れそうな雰囲気。さぁ、幸先の良いスタートを切ろうではないか!



入国審査では、行き先はスイスonlyか他国にも行くのかと尋ねられた。答えは“Switzerland only.” するとスイスのどこに行くのかと聞かれる。ここでジュネーヴだバーゼル だといった大きな都市を挙げられればいいのだが、残念ながら我が目的地はアルプスの山懐の小集落ヴァッセンである。うーん、近くの有名観光地は…冷静ならばアンデルマッ トとでも答えるところ。しかし、とっさの返答に窮した私は、思わず“I'll go to Gottardo.”と答えてしまった。あ…ゴッタルドなんて通じるかい!これでは不審者扱いで質 問攻め確定である…。だが、焦ったのも束の間だった。若い女性の入国審査官は“Gottardo,OK!”とにこやかにパスポートを差し出してくれた。

 
左右とも:2016・08・14 SBB S-Bahn車内 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO800
理由は、空港内を移動するトラムの乗り場で明らかになった。ゴッタルド・ベーストンネルの開通は、国を挙げた大事業としてスイスでは大きなニュースになっており、トラム のホームにもこの工事に携わった企業の広告が大々的に掲示されていた。いまやスイス人にとってゴッタルドは日本でいうところの“Fujiyama”くらいメジャーになっているら しかった。

無事に届いた我がスーツケースを受け取って、いざチューリヒの市街へ!ドイツ語表記時々英語付きといった程度の看板を見ながら、近郊列車に乗る。確か『地球の歩き方』に は、空港は終点ではないから乗る方向に気をつけろと書いてあったっけ。215系ばりのオール2階建て電車の入口で地元と思しき先客に尋ねると、この列車でいいとのこと。見晴 らしのよい2階に陣取り、流れゆく景色を眺めること数分、チューリヒのメインステーションに到着した。



チューリヒHB(メインターミナル)は、歴史を感じさせる重厚な石積みの駅舎に広大なコンコース、そしてずらりと並ぶ頭端式ホームを備えたチューリヒの玄関口である。地下 ホームからエスカレーターで地上に上がるや、そのスケールに圧倒された。

 
左右とも:2016・08・15 SBB Zurich HB FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO400
2016・08・15 SBB Zurich HB NikonD5 AF-SNikkor28oF1.8 ISO200
海外に来ると、何気ない建築物から日常の光景まで全てが魅惑の被写体に見えてくる。しばしの間ホームでひっきりなしに入線してくる客車列車を観察した後は、カメラを片手 に駅を散策。駅舎からオシャレな売店まで対象を選ばずシャッターを切る。そうこうするうち、時計を見るとルガーノ行きICNの発車時間が迫ってきた。券売機でエルストフ ェルトまで30フランの乗車券を購入し、ロマンスカーを思わせる流線型特急電車に乗り込んだ。

市街地を抜けると、すぐに左手に湖が広がった。湖畔の瀟洒な家並みを眺めながら、列車は右へ左へカーブを繰り返す。振り子電車が活躍するわけである。途中で検札がやって きた。こちらでは「改札」という概念がない代わりに、車内では必ず検札がやって来るという。背の高い男性車掌に手持ちの切符を提示すると、アルト・ゴルダウで乗り換える ようにと案内があった。とにかく聞き慣れぬ言語が飛び交う外国の旅行ゆえ、車内の放送とLED表示は要注意。いつしか山間部を走っていた列車は、やがて右手にツーク湖を 望むようになる。湖の対岸に見えていた線路が近づいてくると、乗換駅のアルト・ゴルダウである。

ツーク湖南端で、西岸を走ってきた路線と合流するのがアルト・ゴルダウ。完全に合流する直前に駅が設けられているため、構内は例えるなら鶴見線浅野駅のような扇形構造に なっている。スーツケースを転がして対面ホームの列車に乗車。ここからは普通客レにあたるインターレギオ(IR)でアルプスの山懐を目指すことになる。それにしても、普通 客レに乗るのなんて一体いつ以来になるのだろう。少なくとも日本では1998年に久大本線で12系に乗車したのが最後のはず。海外を含めても、2011年の正月に中国で鶏西から乗 った夜行列車が最後である。実に5年半ぶりの客車列車。IRは期待を裏切らない静かな発車でアルト・ゴルダウを後にした。

九州とほぼ同面積の国土に富士山級の標高の山が幾重も聳えるスイスだけあり、線路際の名もなき岩山一つとってもスケールが大きい。県内最高峰が標高408.2mの愛宕山という 平べったい千葉県から来た私には規格外の風景である。無意識のうちに「あの上からはどんな景色が見えるのだろう」と考えてしまうのは俯瞰鉄の持病だが、岩肌の露出した急峻 な斜面はそんな妄想すら許さない。少しずつ左右の山並みが迫り、地図を見なくともイタリアへの道に立ちはだかるアルプス山脈が近づいてきたことが感じられた。と、右手に真 新しい石積みの築堤とヤードが広がる。もしやこれがゴッタルド・ベーストンネルにつながる新線か!?予想は的中。間もなく新線はピカピカのトンネルの口に吸い込まれていき、 旧線を行く我が列車は山の麓のエルストフェルトに到着した。

2016・08・15 SBB Gottardo Bahn Erstfeld st FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
ここからは、線路に沿って廃駅周辺の集落を回るポストバスで目的地ヴァッセンを目指す。廃止された駅をフォローするのだから客は少なくガラガラだろうとタカをくくっていた ら、何の何の、駅前に列を作るスイス人らしき観光客たちは口々に“Wassen,Wassen”と言っているではないか!ゲシェネン行きのポストバスは、通勤時間帯の山手線もかくやと いう大混雑。大きなスーツケースを抱えたアジア人は非常に肩身が狭い。だが、どこかの国の通勤ラッシュと違って車内の空気は重くなかった。仕事に行くのと遊びに行くのとで は当然心持ちも違ってくるわけで、車内は終始にぎやかで笑い声が絶えなかった。

山間部にさしかかって来ると、これまで雑誌やflickerで見たことのあるアングルがちらほらと確認できるようになる。それにこだわらなくても、人工物皆無の魅力的な線形はそ こかしこに見てとれる。撮り方次第ではどこでもが撮影地と言っても過言ではない。川向こうの切り立った崖を並走する線路を眺めながら、はやる気持ちが押さえきれなくなっ てきた。間もなく、赤い屋根の教会が見えてくると高速の下をくぐり、瀟洒なペンション風の建物が並ぶ集落に着く。運転手氏に尋ねると“Wassen dolf.”とのこと。ついに、 ついにやって来た、ゴッタルド峠北側の難所、ヴァッセンへ!

 
左右とも 2016・08・15 Wassen FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
極東の島国日本の平たい県千葉県から来た平たい顔族には全く馴染みがなかったアルプスの山懐ヴァッセンは、この辺りでは人気の避暑地のようで、例えるなら軽井沢のようなイ メージだった。碧眼ブロンズの観光客がそこここでバカンスを楽しんでいて、小さな集落にも関わらず何件ものホテルが軒を並べている。幸い道に迷うまでもなく、私のホテルは バス停の目の前だった。「HOTEL GERIG→」という看板に従ってバス通りから少し奥に入ったロッジ風の建物である。ちょうど玄関に出て来た女将?に、事前にネット予約してあ る旨を伝え、ドイツ語版の予約確認票を渡す。と、1名ならもっと安いシングルの部屋がある。値段は予約した額の半額でいいとのこと。これはツイている♪ 部屋はまだ準備で きていないということで、荷物だけ置かせてもらい、機材を担いで早速撮影地に向かうことにした。



現行のスイス国鉄(SBB)ゴッタルド線は、標高1100m余りのゲシェネン−アイロロ間にあるゴッタルドトンネルでアルプス山脈を越える。その長さおよそ15q。19世紀当時の技術 では、登れるところまで登って最短距離でトンネルを掘るのが定石だったのであろう、それほど長くないトンネルの前後にはΩカーブありループ線ありの極めて複雑な線形が展開 することになった。北側のヴァッセンはロイス川の渓谷を遡った最奥地に当たり、ここからゲシェネンまでもう一段の高さを稼ぐため、2つのΩが連なって3段の線路が折り重な るように敷かれている。丘の上に立つ者は、下段・中段・上段と一つの列車を3度眺めることができるのである。

定番中の定番、いわゆるヴァッセン上段のお立ち台は午前一杯が順光のはず。今ならまだ撮影可能時間帯だろう。1本でも多くの列車を仕留めるべく、勘に従って山へ向かった。 細い道を辿って中段の線路をアンダーパスし、立ち位置と思われる丘の方に伸びる未舗装の径へ。空は青く、緑は美しく、空気は美味しい。このまま径を進めば回り込むようにポ イントに着くのだろうが、高揚した気持ちは遠回りする我慢強さを持ち合わせなかった。ええい、行ってまえ!ここから直登すればアングルまでは最短距離のはずである。日本と 違って背丈を超えるような草木はない。公園の芝生くらいの草が斜面を覆っているのみである。まさにハイジの世界。急斜面に息を切らせながら頂上まで登ると、4名の先客がい た。

撮影地で同志に会ったら、まずは挨拶。これは万国共通のルールだろう。だが、異国の地での声掛けである。とりあえずは英語か!?と思案していると…「どちらからですか?」 何のことはない、丘の上の4人のうち、明らかに欧米系の1人を除く全員がJapaneseなのであった。1人は神奈川、後の2人は愛知からとのこと。常々撮影に行く度に日本は狭い と思っていたが、世界もやっぱり狭かったとは…。

2016・08・15 SBB Gottardo Bahn Goschenen−Erstfeld NikonD5 AFNikkor50oF1.4 ISO200
日本人同士だとコミュニケーションも早くて正確である。数日前から現地入りされている皆さんにお聞きすると、週末だからか昨日はほとんど貨物が来なかったとのこと。それか ら、休みの日はなぜかIRに新型のRe460が充当されることが多く、我々好みのRe420は貴重であるとのことだった。確かに、三脚を据えて1本目のIRは真紅に塗られたおに ぎり顔の箱形電機Re460が牽いてきた。近代的なデザインのつもりだろうが、パンタから床下までカバーで覆われているのはどうにも野暮ったい。下段・中段を通過するところを 確認して新型か…と肩を落としたが、カマ次位に黄色い検測車を繋いでいる。洋の東西を問わずマヤ併結は貴重だろうと判断し、とりあえずシャッターだけは切った。

2016・08・15 SBB Gottardo Bahn Goschenen−Erstfeld NikonD5 AFNikkor50oF1.4 ISO200
その後は、待てど暮せど貨物は全く来ず。せっかく十数時間のフライトでスイスまで来たなら、やはりRe420を押さえないと話が始まらない。だが、光線状態はそろそろ限界。 次の列車で切り上げるかと考えていると、下から短編成の列車が登ってきた。周囲の鉄ちゃん諸氏によると、黄色い有蓋車は郵便物輸送の車輌とのこと。しかも先頭の機関車は “Gottardo 2016”の特別塗装機。カッコイイか悪いかは別として、これも色ガマとして記録の対象にはなるはずだ。不完全燃焼ながら2カットの成果を得て山を下りた。

 
左右とも 2016・08・15 Wassen FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
今回は久しぶりの歩き鉄。国内ではすっかりカー鉄に慣れきってしまい、どこへ行くにも足は愛車か現地手配のレンタカーと決まっていたが、物価の高いスイスではレンタカーも 割高、それにヴァッセンに泊まりヴァッセンで撮るなら足は自前の2本で充分だろうという計算である。ペンタセットもサンニッパもゴーヨンもない軽装備に三脚も中型ジッツオ だから足取りも軽い。時おり目に留まった景色にレンズを向けつつ、20分ほどで下段の定番カーブに到着した。

2016・08・15 SBB Gottardo Bahn Goschenen−Erstfeld  NikonD800 AF-SNikkor35oF1.8 ISO200
ゴッタルド峠の数ある撮影地の中でも、これぞ“The Wassen!”といえるのがこの下段のアウトカーブである。ロイス川の流れにヴァッセンの教会、そして奥には鋭いピークを有 する山並みが屏風のように聳える。今日は残念ながらバックの三角山の稜線は見えないが、その代わり青空に浮かぶ夏雲がいい雰囲気を出していた。

上段の丘と異なり、こちらは手持ちのヨーロピアン鉄ちゃん3人組が先客だった。軽く挨拶をかわし、立ち位置を吟味。架線柱の処理を考え、高速道路の看板をカットし、教会を 左上に配し、青空を入れる…35oでこんなもんだろうか。ついでにもう1台には50oを付けて、タテアングルでダッコちゃんに括る。仕上げに斜面から伸びる雑草が画面下端にや や干渉するので、気合でガーデニング。先客たちは撮り方がアバウトというか大らかなようだが、私はこだわる。Japanese鉄ちゃんの面目躍如たるところである。14時40分過ぎ、 ようやく撮りたかった赤いRe420の牽くIRがカーブを切ってやって来た。

夕方、中段の大アーチ橋を見下ろすアングルで愛知のお2人と再び遭遇。御両名は会社の先輩・後輩で、昨日からレンタカーでゴッタルド界隈を撮影しているという。宿泊は同じ ホテル・ゲーリッヒということで、16時台のIRを撮り終えた我々は、さっそくホテルのレストランで祝杯を挙げることにしたのであった。



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