GALLERY02 桜舞う鉄路の物語 3.2005年 西美濃のSAKURA TRAIN
昔ながらの山里に根尾川が蛇行を繰り返す西美濃の地は、かつて名鉄谷汲線が健在だった頃に何十回と通った馴染みの場所。だが、いつも 真紅の古豪に惹かれて川向こうにばかり張り付き、樽見鉄道は往き帰りの足として利用するだけだった。以前から話題になっていた「桜ダ イヤの客車列車」も、一度行き掛けの駄賃に軽くシャッターを押した程度で終わっていた。しかし、よくよく考えると21世紀にもなって未 だ日中普通客レが走るのはここくらいのものではないか。谷汲線は消えたが、樽見ならまだ間に合う!2005年の春は西美濃の地を再訪する ことに決めた。 この時期恒例の春期講習を終え、金券ショップで購入した残り2回分の18きっぷを片手に「ながら」に乗り込んだのは4月8日金曜の夜だっ た。確か2000年のデータでは、名鉄谷汲線の北野畑〜谷汲の桜が4月中旬に満開、更地はその1週間前がベストだったので、明日は横屋− 十九条の堤防など大垣寄りのポイントならいい絵が撮れるはずだ。車で出撃を宣言していた小砂川−上浜氏からは、上空星バリ見えとの連 絡があった。明日の成果を夢見るうち爆睡。春眠暁を覚えずというやつで、気付けば列車は揖斐川の鉄橋を渡っていた。 土曜日の今日は本巣−大垣間の定期客レ(206レ・207レ,休日ウヤ)も運転される。「ながら」接続のレールバスに乗ると、東大垣で206レと 交換。本日は朱い「V字」ガマTDE10 1 が先頭に立っている。2駅先の十九条で下車し、徒歩数分で犀川の鉄橋へ。ここで先着していたコ サカミ氏と合流して早速セッティングにかかる。堤防の桜並木は8分咲きくらいか。絵にならなくはないが、あと一歩という感じ。でも、 空は抜けるように青い。今日一日晴れが続けば、午後か夕方には満開近くになるだろう。まずは広角でそんな青空をグリグリ絞って強調。 ワイドレンズ独特のブルーがいい味を出してくれた。
しばしの時間を置いて、桜ダイヤ1本目の客レが大垣に回送される。上り列車は堤防を回りこんで真横から狙うのがベスト。背後には頂に 雪を残した伊吹山が光る。近江長岡辺りで見せるズングリした山容しかイメージになかったので意外な気がしたが、そう、ここから一山越 えればもう琵琶湖東岸なのだ。三歩進んで二歩下がりを繰り返しながらペンタ165でピタリと極まる立ち位置を探り当て、いよいよ列車登 場!桜並木から飛び出してきたのは、ブルーのTDE11であった。
青いTDE11の編成が8001レで大垣から下ってくるのを先の207レと同じ場所で撮ると、休む間もなく桜ダイヤ2本目の客レ回送が上ってくる。 急ぎ対岸に渡って、今度は普通に編成撮りで。背後の桜を少しでも目立たせようとハイアングルにしていたら、すぐに列車が来てしまった。 35ミリは据えられず、67のみ1丁でいざ勝負!
TDE10牽引の8003レは大垣10時46分発。この鉄橋もいい加減サイドに日が回らなくなるので、この間の時間を使って谷汲口へ転戦。ここで お会いした鉄な方も含め、計3人でコサカミ氏のミラ・エクスプレスにお世話になることになった。 桑畑が広がる長閑な線路際と違って、国道沿いには大型ショッピングセンターなどが進出しており、地元の人々の生活がとうに車中心にな っていることをうかがわせる。そんな中、樽見鉄道を支えているのがセメント輸送の貨物列車である。TDE10・11の重連が時に20両以上のタ キを牽引し、本巣−大垣を結ぶ。だが、聞くところによるとこの貨物列車も今年度限りで廃止されることが決まったという。我々としては、 気になるのは当然DLたちの去就。もしかすると、桜街道を行く客車列車の雄姿も来年は見られないかもしれない。14系2両・3両といった 昔日の賑わいからは信じられないような短編成での運行が嫌な予感を誘う。 谷汲口の桜は、やはりというか何というか、まだまだ絵になるには早い3分咲きだった。近くに寄って花をアップにすると、完全に妥協負 け組写真になってしまう。あれこれと脳ミソを使って考えた末、駅の神海側にある「まぁ見られる」程度の木をモチーフに遊んでみること にした。桜の静と列車の動、これを対比させるには、列車ブラしは効果的な手法といえる。11時30分、8003レ発車。
続いてやって来るのは、先ほどの8003レと神海で交換してくる青ガマ牽引の8006レ。通過まで12分しかないので、深く考えず35ミリ1丁で 普通に走りを撮影したが、あまり大したものは撮れずに終了。ここでの間隔がキツかった割には、次は13時28分まで2時間弱も客レはない。 その間にボリュームがない桜でどう絵作りをするか真剣に悩む。及第点に達しているのは、上の写真で背後に入れた1本のみ、それも一部 の枝先だけだ。うーん…。頭をひねった末、こういうアングルで切り取ってみた。
下りの客レは今の8005レでおしまい。あとは、回送列車を除けば赤ガマと青ガマが2本立て続けに上ってくるだけとなる。残り少ないチャ ンスで桜をあしらって撮るなら、谷汲口にはこれ以上の長居は無用。開花状況重視なら本巣以南の方がベターという結論に至った我々は、 程よく西側に光が回り始めた横屋−十九条の鉄橋にUターンした。15時20分頃通過する8008レは赤いTDE10牽引。原形に近い色なのでカッコ よさを強調すべくシチサンでガツン!バックに桜という構図で狙う。狭い足場が結構パニックになってきたので、ハイアングルでセッティ ング。柔らかな西日を浴びて主役がファインダーに現れた。
次の青ガマ編成は客車がたった2両。しかも最後尾はオハつまり中間車なので、編成全部は入れず、堤防の桜を主題にして列車はチラリで 構えてみる。幸い今日はベルビア級の青い空。ピンクの花びらとのコントラストが美しい。標準よりやや広めのペンタ90oで、右下の川面 から左上の桜のてっぺんまでアングルはドンピシャX!まずは左アタマでバランスはよろしくないが本巣へ回送されるTDE10+14系を押さえ、 続いて本命のTDE11をありがたく頂戴した。
気付けば堤防の桜は朝に比べ随分と花が開いていた。あまりにも見事な咲きぶりなので、レールバスもおなじ場所からF4&広角ズームで 撮影。そして本日最後の客レTDE11+14系の回送は、堤防の上から鉄橋を渡り終えたところを真横で撃つことにした。ここ長良川や揖斐川 の下流一帯は海抜高度が低く、川底の方が高い天井川が形成されている地域。中学校の地理の時間に習った「輪中」が見られる所である。 この犀川も、上の赤ガマの写真を見てわかるように小さな支流ながら天井川になっており、鉄橋前後には周囲の低地から急勾配の築堤が続 いている。前後に堤防の桜を配して、築堤に差し掛かったカマ+客車半両をアップで切ると実にいい感じではないか。果たして、最後の客 車列車はキャッチライトでキャブを輝かせ、軽やかにファインダーを駆け抜けていった。
忙しいくらいに撮影効率の良かった桜ダイヤの1日もこれにて無事終了。しかしここで重大な事実を思い出し、一気に現実に引き戻された。 何を隠そう、明日は教員免許を取るために進めている通信教育の試験だったのだ!科目は中国近世史。一応手元に概略のメモくらいは挟ん でいるが、頭の中は完全鉄モードになっていてすぐにクールダウンするのは無理だろう。かくなる上はさっさと帰ってさっさと寝て、明日 の早朝気合で準備するしかないかぁ!車で撤収するコサカミ氏と別れ、横屋の駅からレールバスで大垣へ。名古屋から新幹線に乗り継ぎ、 あっという間に帰京した。 翌朝10時に試験開始。出題は「土木の変の背景と経緯、結果について論述せよ」。何てことはない、土木の変は高校教科書にも載っており 教材作成の仕事でちょっと調べたこともある。1月後、無事単位修得の葉書が郵送されたのでありました(笑)。行きたいときには無理して でも撮りに行け、これは鉄の大原則である。 先週の樽見ツアーでは、横屋界隈は良かったものの谷汲口以北はさっぱりであった。あれから1週間、陽気にも恵まれ開花はだいぶ進んだ のではないか。コサカミ氏には「樽見を撮るなら日当の桜は一度は見ておかないと損」と以前からかなり焚きつけられていたし、ならば2 週連続の岐阜お花見出張と洒落込もうと予定を組んだ。ところが、氏の方は生憎休日出勤に当たってしまい出撃不可とのこと。残念!少々 しんどいが、列車本数の少ない末端区間で撮ることも考え、今回は千葉からマイ・マッシーンで出掛けることにした。 土曜は全国的に天気が悪く、日曜は晴れ予報。こういう予報は金曜深夜まで仕事で拘束される人間にはありがたい。これまで「土曜のみバ リ晴れ」という予報に翻弄され、何度徹夜で遠征したことか。だが、今日は人間的な時間に出発し人間的な時間に到着できそうだ。16日土 曜の夕方、ややお疲れ気味の愛車に機材一式を詰め込んで、舞浜ランプのETCゲートをくぐる。のんびりマイペースで走り、本巣の道の駅 には深夜に到着した。 たっぷり5時間ほど熟睡して寝袋から顔を出すと、見事に空はドクリアー!桜の咲き具合さえ計算通りなら、今日もいいカットがモノにで きそうだ。コンビニで物資補給してから、早速コサカミ氏ご推薦の日当駅に直行する。薄墨桜見物のパンピー車で渋滞するという国道157 号も早朝だとスイスイ進み、30分かからずに目的地到着。着いて思わず息を呑んだ。駅の桜はまさに今が満開!ピンクの花弁が斜光に浮か ぶ。これだけの好条件ならX写真に被写体は選ばない。間もなくやって来た大垣からの一番列車をまずは1カット!
居心地がいいのでしばしスナップ。9時近くなると少しずつ花見客もやってくる。年配のハイカーグループ、家族連れ、若いカップル…新 しい季節の到来に、みな表情が明るい。オトコ一人機材担いで鉄してる自分は一体何なんだろう、根源的な問いに答えはない(汗)。
とあるサイトによると、この駅を大垣方から俯瞰する足場があるらしい。客レまではしばらく時間があるので周囲を探索。川を渡り、駅の 南側の斜面へと登って行く道を進んでみる。ヘアピンカーブの頂点から藪の中に怪しく伸びている獣道を辿っていくと…出たぁ!! 断崖絶壁 の突端から眼下に絶景が広がった。
キハを2本仕留め、次の客レに備えて定番立ち位置に戻る。いつの間にやらギャラリーは膨れ上がり、肩寄せ合ってのゲバ据え。10時を過 ぎ、光線は列車の背後に回ってかなりキツくなってきた。それでも花びらが透過光に浮かぶことに期待し、露出は強気の1/1000sec f4。さ ぁ来い、客レ!定時より若干遅れて、列車は屋根を光らせながら走り抜けた。
基本的に南北に線路が走る樽見鉄道では、真昼間にサイドに光が当たる場所は限られている。地図でアタリをつけた結果、次の列車に最も 妥当と思われたのが神海駅の高科方にかかるガーター橋だった。だが、先ほどの青ガマ編成の返し8006レと次の赤ガマの下り8003レは神海 で交換する。片方を後追いで妥協しないと、両方撮るのは無理であろう。悩んだ末、赤ガマTDE10を重視することにして件のガーター橋へ。 川縁には桜並木があり、程よく見頃。ただ、問題は背後に聳える数本の高圧鉄塔だった。左の鉄塔は画面左端ギリギリで切るとして、どう にもならないのがド真中の1本。「何でこんな所に立てるかねぇ」というのは鉄が共通して抱く理不尽な疑念である。中部電力からしたら 知ったこっちゃないだろう(苦笑)。仕方なくローアングルにして、なるべく列車で隠れるよう工夫する。後追いの8006レでアングルを確認 し、いざ勝負!
次の下りは、終点に近い水鳥−樽見のコンクリ橋俯瞰で狙う。撮影地ガイドによると、3セク化後に建設された新幹線のような立派な鉄橋 を横がちに見下ろせるはずである。しかし…薄墨桜見物の観光渋滞のことをすっかり失念していた。高尾の先までは根尾川の対岸の県道を 進んだから良かったが、水鳥の駅前で国道157号に合流するともうアウト。延々続く車列は全く流れる気配がない。ただ無為にハンドルを 握るうち、8005レの通過時刻が刻々と迫ってきた。撮影地まではまだ数キロ。これはもう間に合わない!背に腹は変えられぬ、車中見る鉄 よりはよほどマシと割り切って水鳥の駅前で駐車場に車を突っ込み、F4+80-200oズームとハスキーだけ持ってホームにダッシュ!当た り障りなく駅先端で構えると、間もなく青いTDEがカーブを切って現れた。とっさに撮ったためこのカットは全然ダメ。その代わり、ついで にスナップを数枚。かえってこちらの方がいい仕上がりだった。
渋滞はもうコリゴリなので、残り2本の上り客レは確実に撮影できる谷汲口近辺へ逃げることにした。桜は先週平日にピークを過ぎたと思 われるが、あの付近は根尾川を渡る鉄橋の前後に午後順光の撮影地が点在していたはず。名鉄谷汲線があった頃以来かって知ったる谷汲の 地、自分の記憶を信じて谷汲大橋の東詰付近へ。案の定、広い歩道からはトラス橋を抜けて築堤を下ってくる線路を見下ろすことができた。 それなりに鉄ちゃんが集まっていたので、ハイアングルにしてペンタ400を装着。桜はもう大半が散ってしまったが、築堤の背後には白い花 が彩を添えている。何度もピント・アングルを確認していると、トラスを渡る轟音が聞こえてきた。下り勾配を滑るように降りてきたTDE10 をバリピンでシュート!!
さすがに次も同じ場所では芸がない。ラストの客レは谷汲大橋の上から真横で撮ろうと思う。大きく蛇行する川を余さず入れ、かつ背後の 山がバランスよく収まり、その上列車で鉄橋上の標識を隠せる場所を…とファインダーを覗きながら右往左往。やっと納得の立ち位置を見 つけてセッティング。レールバスにもちょくちょくシャッターを切って、いよいよ本命登場である。15時40分、青いカマに引かれた短い 「汽車」が根尾川の流れの上に短くホイッスルを響かせた。
最後に谷汲口駅に立ち寄り、軽くスナップをこなして撤収。電車で来た先週と違って今日はここからが気が重い。旧長瀬駅跡から名鉄谷汲 線の廃線遺構をなぞり、北野畑付近から根尾川・揖斐川の堤防をひたすら南下。途中横屋−東大垣の揖斐川橋梁の袂に出たので、ここで客レ 回送を半端なシルエットで1発撮影し、18時に岐阜羽島ICから高速に乗る。ラジオをつけると、ちょうど中日−阪神戦がプレイボール。だ が東海道の道のりは長く、クローザー岩瀬が9回を締めてもまだ沼津。東京に近づいてからは渋滞にも巻き込まれ、帰り着いた頃には日付 が変わろうとしていた。 周知のように、2006年3月をもって樽見鉄道の貨物輸送は終焉を迎えた。それに先立つ3月4日には、定期客レ206・207レの最終運行も行われ た。現在、同鉄道にDL牽引の列車はない。貨物輸送なき後、樽見鉄道の運命はどうなってしまうのか。つい先頃の鹿島鉄道の例が頭をよ ぎる。今後の健闘を祈らないではいられない。
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