鉄路百景 GALLERY16. ロッキー山脈に響く汽笛

GALLERY16 ロッキー山脈に響く汽笛

2.クンブレス峠に挑む〜C&TS〜

今回の訪米の2つ目の目的が、クンブレス・トルテック・シーニック鉄道(C&TS)だった。デュランゴから東へ約200キロ、ニューメキシコ州チャマとコロラド州アントニート を、サミットとなるクンブレス峠を越え、州境を縫うように結ぶ路線である。ゲージはD&SNGと同じ3フィート(914o)で、同じくボールドウィン製の古典蒸機を擁し保存運転 に取り組んでいる。いわば、デンバー&リオ・グランデ鉄道の生き残りの兄弟のような存在である。

8月10日、撮影を終えた私は英語しか喋らないカーナビに導かれるままデュランゴからUS Highway160を進んでC&TSの東端、宿のあるアントニートに向かった。夕日に染ま る赤ロッキーを眺めて丘陵地帯を進むうち、辺りが暗くなってきた。すっかり日も暮れた頃に西端の駅チャマを通過。ここからクンブレス峠を越えれば70キロほどで目的地 である。

2017・08・10 C&TS Lobato−Cresco FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO2000
が、そのクンブレス峠への登り坂で衝撃の光景が目の前に広がった。C&TSの踏切を越え、緩やかな右カーブを進んだ先に怪しい黒い影がたむろしているのが見え、急減速。 ライトに照らされた先には、すぐ脇の牧草地から天下の国道を大横断しておうちに帰る牛たちの大群が立ちはだかっていたのだった。人類同士のコミュニケーションなら身 振り手振りと笑顔があれば何とかなるが、さすがに牛の言語はわからない。彼らが通り過ぎるまで座して待つしか手はなかった。

 
左:2017・08・10 NARROW GAUGE RAILROAD INN  FUJIFILM X100S FUJINON23oF2  ISO200
右:2017・08・10 NARROW GAUGE RAILROAD INN FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO2000
アントニートは、本当に何もない所だった。宿の場所を登録したナビは、ただの空き地としか思えぬ漆黒の闇をブレずに指し続けている。今夜からの我が寝床は一体どこなの か?駅裏のヤード周辺を2周ほどして、ようやく薄暗い照明に照らされた“NARROW GAUGE RAILROAD INN”の看板を発見。夜10時、すっかり人気もまばらになったモーテルに 荷物を置いた。

一息ついて部屋を見回すと、booking.comで検索して名前先行で予約しただけのことはある。ベッドの向こうの壁面に飾られた絵には、C&TSの名所の一つ、オジアのカスケード 橋を渡る蒸気の勇姿が描かれていた。

 
左:2017・08・10 CAFE&BAR DUTCH MILL店内                             iphone5
右:2017・08・10 NARROW GAUGE RAILROAD INN  FUJIFILM X100S FUJINON23oF2  ISO1000
さて、無事にチェックインしたまでは良かったが、今宵最大の懸案がメシの調達である。車で町の中心と思われる一角を流してみたものの、唯一のスーパーは目の前で閉店。 あとは街中で明かりがついているのはちょっとオトナな感じで妖しい雰囲気のバー1軒のみである。まぁ、オトナな雰囲気にたじろぐ年頃でもない。腹を括って丸腰でアタッ クしてみた。

店内では、丸太のような両腕にタトゥーを彫り込んだコワモテのマスターが馴染みと思しき客とカウンターで談笑していた。恐る恐る、何か食べるものはないかと尋ねると、 “ピッツァがあるぜ”との答え。今すぐ焼いてやるからちょっと待てと制されて、不思議な間合いを常連客と過ごす。baseballは好きかと言うので、Of course!俺はIguchi の所属するチームがあるChiba prefecture in Japanから来たぜ!とひっちゃかめっちゃかな英語で返すも、いまだ人類の祖先をアダムとイヴだと信じてやまない中西部の飲ん だくれに極東の平たい顔族のローカルネタが通じるわけもなく、しばし微妙な空気が流れた。

いたたまれなくなった私は、焼きあがったピザをアルミホイルに包んでもらい、部屋に持ち帰って一人ワインを嗜みながら頬張ったのだった。



翌朝起きると、アントニートは雲が多めの空模様だった。西方、ロッキー山脈方面はもっと低い雲が垂れ込めている。とはいえ、マンネリ気味の日本の撮影地ならいざ知ら ず、右も左もわからない彼の地ゆえ、とりあえずロケハンくらいはしておきたい。いや、毎日3往復もの列車が走るD&SNGと違い、C&TSは1日上下1本ずつ。効率よく撮影する には追っ掛けパターンの確立が必須である。撮影地の確認とともに、事前のタイムトライアルは何より重要と言える。

2017・08・11 C&TS Antonito FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
朝一のみ雲の隙間から陽が射した。荒涼とした大地にポツンと佇む小さな町の真ん中にアントニート駅はある。構内ではすでに客車が据え付けられており、駅裏のこじんまり した庫ではK-36蒸機が煙を上げてスタンバイしていた。

2017・08・11 C&TS Los Pinos-Osier FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
線路と道路が近づいてくるロスピノス付近からオジア方面に林道?を探検。オジア駅前後にはカスケード橋をはじめ色々と撮影地があるようだが、道路から距離があるためアプ ローチが難しい。当たりを付けて未舗装の道路にアタックしたものの、コロラドとニューメキシコの州境を彷徨っただけで、目的の場所には辿り着けなかった。悔しいので、州 境で記念撮影を1枚。

2017・08・11 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
曇り時々小雨の天気ながら、デジの恩恵というやつで、撮影地の確認を兼ねて見本写真を撮りつつクンブレス峠を越え、チャマまでやって来た。C&TSの拠点はこちら側で、木製 の給水塔を備えたヤードには、何両もの機関車が停車中。庫の前には、アメロコ鉄ちゃんに一番人気のK-27形463号機が有火状態で停まっていた。

 
左:2017・08・11 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO800
右:2017・08・11 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
機関士氏に手を振ってお願いすると、快くキャブに立ち入らせてくれた。撮影地には頭のオカシイ鉄道ヲタが溢れ、現場には事なかれ主義が蔓延する某国では、もはやこんな機会 は望むべくもない。ありがたく立ち入らせていただいて、生ける蒸機の息吹を肌に感じた。

 
左右とも:2017・08・11 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
遅い昼食は駅前の屋台?で。やはりメニューはハンバーガーばかりで、とにかく野菜多めのをオーダーする。これも持ってきな!とおばちゃんがおまけしてくれたのは、食べきり サイズのドリトスだった。このツアー中、一体どこまでジャンキーなものを食べ続けることになるのだろうか…。



翌朝は、宿の上空こそ薄雲が広がっていたが、荒野の向こうロッキーの稜線は見事なまでの青空に抜けていた。これは勝てる!昨日のロケハンに従って周れば激X量産は間違いな い。午前の狙いは、チャマ側からクンブレス峠に挑むアントニート行きの列車。まずは全線横断して反対側の始発駅まで行かねばならない。パンにオートミールの朝食もそこそこ に、機材を積み込んでレンタカーのエンジンを掛けた。

 
左右とも:2017・08・12 State highway17 FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
大平原を西方へ進み山中に差し掛かると、空は雲一つないド快晴になった。乾燥した空気と相まって実に気持ちがいい。思わず村の小さな教会の前で、山の中腹の展望台で記念 撮影。鉄ちゃんたるもの、この条件でテンションが上がらない方がおかしい。これからの成果にわくわくしながらハンドルを握った。

 
2017・08・12 C&TS Chama NikonD5 AF-SNikkor85oF1.8G ISO200
現地に着くと、今日の牽引機は昨日火を入れていたK-27型463号機のようで、早くも入換を始めていた。間もなく赤褐色の客車の前に人気の古典ロコが据え付けられる。普通の 駅撮りでいいから1枚撮ろうとカメラを構えると、同好の士と思われるアメリカ人から声を掛けられる。英語で早口かつ鉄ヲタトークと、とても詳細な理解は不可能な状況だが、 単語の端々を捕まえるに、どうやら“今日はdouble headerだぜ、boy!”と言っていることは見当がついた。理由を聞いてみると、463号機は小型で牽引力が低いらしい。なの で、コイツが登板する際には前補機を付けて峠に挑むのだとか。これは楽しみになってきた!

 
左:2017・08・12 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
右:2017・08・12 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO800
アントニートと同じく、チャマの駅舎もイエローを基調にした木造の建物である。そのシンプルさが、昨今某国ではやりのエセ「レトロ」と違って“本物”っぽい。重連が組ま れるのを待っていると撮影地に先行する時間が危うくなるので、とりあえず駅構内のグッズ売店だけ冷かして、さっそく1発目のアングルに向かうことにした。

2017・08・12 C&TS Chama−Lobat FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
ロケハンの結果、追っ掛けのスタート地点としたのが、チャマから2マイルほど進んだ道路沿いの直線区間。バックには白樺にも似たアスペンの並木が続く。雰囲気だけ見れば、 かつての深名線北母子里の踏切を思い出す。ペンタ165、D5に85o、それにビデオを据えて列車を待った。

2017・08・12 C&TS Chama−Lobat NikonD5 AF-SNikkor85oF1.8G ISO200
10時を回り、かすかに汽笛が聞こえる。しばらくすると、遠方に2条の煙が立ち上り、ドラフト音が響いてきた。しかし、列車は全く近づく気配を見せない。見通しが良いだけ に、ゆっくり過ぎる列車を待つのに焦らされる。ファインダーに列車が入ってきた。2両目の本務機がK-27型463号機、前補機には中世騎士の兜のような巨大スノープロウを装備 したK-36型487号機が立つ。2両の機関車は、「やまぐち号」もかくやというほどの大爆煙を上げながら目の前を通り過ぎていった。

手早く機材を撤収し、すぐに追っ掛けを開始。相手の速度が30km/hそこそこなのに対し、こちらの制限速度は約90km/h、慌てることはない。 1キロも行かないうちに2条の煙を 追い抜いたので、途中誘惑に駆られて手持ちで1発撮ってみた。しかし、ツメが甘くてどうもイマイチ。ネタ鉄の世界には手持ちで発数を稼いで撮った枚数を豪語するむきもあ るが、私としては構図を熟慮しない写真など撮るだけムダである。瞬発力が勝負のスナップならまだしも、本気の勝負をする場においてしたり顔で手持ち主義を力説する鉄ちゃん の何と胡散臭いことか。

2017・08・12 C&TS Lobato−Cresco NikonD5 AF-SNikkor85oF1.8G ISO200
2017・08・12 C&TS Lobato−Cresco NikonD800 AF-SNikkor50oF1.8G ISO200
というわけで、次は距離的には少し先になるが、本命のポイントまで一気にワープ。15分ほどの余裕をもってロバトのS字俯瞰に三脚を立てる。山の中腹にうねる線路、その背後 には谷間に広がる大草原が見渡せる。日本では大畑や狩勝クラスの雄大な風景が、州道からのお手軽俯瞰でモノにできる。しかも被写体は看板無しの重連蒸機ときている。

ペンタは165oタテ、D5は85oヨコ、そしてD800は50oヨコで3台切り体制。準備は万端!しばし待って、ようやく山裾から煙が見えてきた。激しいドラフト音とは裏腹に、 列車の速度は歩くほどに遅い。煙は真上に立ち上る。が、その時斜面に吹きおろしの風が一陣!立ち上った黒煙が客車側に流れる。これが蒸機撮影の難しいところである。仕方 ない、煙の影からカマが抜けたところで一斉にシャッターを切った。

2017・08・12 C&TS Cresco−Cumbres NikonD800 AFDCNikkor135oF2 ISO200
次のポイントは、クンブレス峠のサミットにほど近いパーキングから。これまたドライブスルーの立ち位置に三脚を立て、ペンタ300とD800の135oで構図をセット。緩やかな アウトカーブを横がちの角度で切り取る。間もなく重連独特のせわしないリズムが耳に届いた。空気を揺らすようなドラフト音と共に画面に列車が現れる。しかし、ここも風に 煽られて、真っ黒な煙が竜の如く踊る。客車が隠れないことだけを念じてレリーズを押した。

2017・08・12 C&TS Cumbres NikonD5 AFDCNikkor135oF2 ISO200
のんびり片付けてクンブレス駅に行くと、先ほどまで追っ掛けてきた列車が給水と補機の解放のため停車中。すでに先頭に立っていた487号機は切り離されてデルタ線に引き上げて いた。1903年製、すでに1世紀以上の時を刻んできた歴史の生き証人が、変わらぬ端正な姿で客車の先頭に立つ。その雄姿に敬意を表して、停とはいえじっくりと撮影した。

午後は、アントニートからチャマに向かう列車がターゲット。上下交換駅のオジアから、馬蹄形大Ωカーブのあるロス・ピノスを通り、クンブレス駅に至るまでの連続上り勾配 が舞台である。こちらも前日の入念なシュミレーションにより追っ掛け勝利の方程式は確立済み。まずはロス・ピノスの大Ωポイントに布陣した。

ところが、デュランゴと同じく、安定した晴れベースの内陸部も、昼を過ぎると上昇気流のせいか筋斗雲が所々に現れる。この日も例外ではなく、ロス・ピノス上空は列車通過 15分前から巨大雲の通り道になった。陽は陰り、湖の水面は雲を反射して白くなった。これはイカン!ただでさえ次の追跡は厳しい時間との闘い。ここは勝算低しとみて、本番 見る鉄で勇気ある撤退をし、クンブレス駅手前のタングルフットΩカーブに移動した。

2017・08・12 C&TS Cumbres−Los Pinos NikonD800 AF-SNikkor35oF1.8G ISO200
チャマ行き最大のハイライトともいえるのがタングルフットのΩである。サミットまで最後の高度を稼ぐため、列車は駅の手前で約360度の大カーブを描く。こんな線形を見せつ けられると、もはや目の前の景色が1/1スケールの鉄道模型に見えてくる。

リミット一杯の高速運転でクンブレス駅に滑り込み、車を置いて線路際を歩く。そんなに足場は悪くない。勾配もキツくない。普段国内鉄ちゃんで無理を重ねているのと比較すれ ば、これしき大したことはない…はずだった。しかし、僅か1キロほどの距離を歩くのに、進めども進めど目的地に近づかない。ようやく目を付けていた立ち位置に到着する頃に はずいぶん息が上がっていた。それもそのはず、この付近の標高は3000m超。日本でいえば北アルプスのてっぺん辺りで荷物を担いで競歩をしているようなものである。疲れるの も無理はない。

そうは言っても、時間は容赦ない。休む間もなくΩに向かうカーブにK-36型が現れる。もはやセッティングは時間のとの戦い。ジッツォを立てて、ペンタは75o、D800は35oで 置きピン、そしてアングルを固定。大丈夫、まだ列車はファインダーに入っていない。ビデオも据えて迎撃態勢完了!と同時に、目の前を機関車が通過。そこから列車は左へ急旋 回し、Nゲージのレイアウトのように円形に敷かれたレールをぐるりと一周して切り位置にやって来る。煙が薄いのがやや残念ではあるが、独特の線形がよくわかる構図で納得の 1枚を押さえた。

2017・08・12 C&TS Chama−Lobato NikonD5 AF-SNikkor70-200oF2.8VRU ISO200
クンブレスからチャマまではひたすら下り勾配なので、基本的に煙は望めない。それでもアングル重視で追っ掛けを敢行。しかし、要所要所で来る曇るにやられ、ついにチャマ駅 近くの踏切まで来てしまった。泣いても笑っても最後のポイントだし1枚撮っていくかとカメラを取り出す。と、通りがかりの車が突然停まり、家族連れが現れた。列車の見物が 目的らしい。だったらこちらも構図を変えよう。一応彼らにとっていいかと承諾をもらい、背後から列車と絡めたカットを頂戴した。

 
左右とも:2017・08・12 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
今日は夏空が広がる中、チャマ駅構内をスナップ。デュランゴと違い、気軽に駅や庫に立ち入ることができるのがC&TSのいいところ。木製のコールタワーがいい味を出していた。

 
左:2017・08・12 Antonito FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO2000
右:2017・08・12 Antonito FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO4000
今日1日いい撮影ができたので、昨晩のお礼がてら例のバーにお邪魔した。今日のカウンターの常連客は軍隊を退役した初老の男性。酒が回ったのか、呂律も回らず怪しいオーラ を醸し出しているが、上手く聞き取れなかった自慢話の後にこれを見ろと差し出した右手には親指の第1関節から先がなかった。彼にとっての名誉の負傷の跡らしい。よくわから ないながらバーボンを片手に意思疎通を図り、最後は固い握手をかわして店を後にした。23時過ぎ、ロッキー山中のアントニートは真っ暗で、星空が実に美しかった。



次の朝も快晴で迎えた。この日はアントニートからチャマに向かう西行き列車がK-27の牽引。これをロス・ピノス大Ωで極めるのと、昨日撮り切れなかったアングルを周るのが今 日の目標である。

 
左:2017・08・13 NARROW GAUGE RAILROAD INN  FUJIFILM X100S FUJINON23oF2  ISO1600
右:2017・08・13  NARROW GAUGE RAILROAD INN  FUJIFILM X100S FUJINON23oF2   ISO200
食堂にはこのモーテルの主人が飼っているネコがいた。非常に人懐こくて、誰彼構わず客の間を歩き周り愛想を振りまいている。そんなニャンコと戯れながら朝食を済ませ、いざ 出発。今夜はデュランゴに戻るため、これで荒野のアントニートともお別れである。

 
左:2017・08・13 C&TS Chama  FUJIFILM X100S  FUJINON23oF2    ISO200
右:2017・08・13 C&TS Chama NikonD5 AF-SNikkor70-200oF2.8VRU ISO200
チャマの駅では、早々に機関車が煙を上げていた。今日の東行き牽引機はK-36型489号機。近くのアメリカ人鉄ちゃんにTodayもdouble headerかい?と聞くと、No!という答え。 やはりK-36だと単引きで充分峠を登れるらしい。記撮する家族のスナップなどを数枚撮って、駅近の踏切アングルに先行した。

2017・08・13 C&TS Chama−Lobat
NikonD5 AFDCNikkor135oF2 ISO200
昨日と同じアングルで単機牽引を撮っても、似たようなカットの縮小再生産になってしまう。ならばと駅を出てすぐの州道とクロスする踏切で面タテ構図を狙う。大型スノー プロウ付きの厳つい顔はアップで切り取るとカッコいいはずだ。

ペンタは300o、デジは135oで、左下に黄色い花をあしらってセット完了。10時ちょうど、発車を告げる汽笛が響いてきた。ゆっくりだったドラフト音が次第にせわしくなり、 少しずつスピードに乗ってきたことがわかる。程なくして画面隅に現れた煙が徐々に近づき、ファインダーに機関車が顔を出す。決して速いわけではないが、青空に黒煙を噴き 上げる様は迫力満点。D5の連写を回しながら一発勝負のペンタに集中してシャッターを切った。

2017・08・13 C&TS Chama−Lobat NikonD5 AF-SNikkor85oF1.8G ISO200
すぐに追撃態勢に入ると、昨日手持ちでしくじったポイントに余裕をもって先回りできた。今日こそはきちんと極めてやろう!ペンタ165oとD5+85oの2台を手早くセット。 やや見下ろし気味の角度で、林を抜けてきた列車の首カックンを狙う。

まだしばらく来ないと思っていたが、早くも汽笛が響き、黒煙が見えてきた。だが、ここからが時間がかかる。ゆっくりゆっくりと汽車は歩みを進め、5分近くもかかってよう やくファインダーに姿を現した。じっくり組んだ構図で、よーく考えた切り位置にて一撃。無事再履修は完了した。

2017・08・13 C&TS Lobat−Cresco NikonD5 AF-SNikkor85oF1.8G ISO200
そのまま適当に流すと数キロで列車を追い抜き、州道と線路がクロスする踏切の手前、40‰の急勾配が続く区間で撮れそうな塩梅だった。道路脇のスペースに車を停めて、デジ 1丁でアングルを極める。すぐに列車が現れた。今にも停まってしまいそうな速度で喘ぎながら峠に挑む機関車からは、真上に煙が吹き上がっていた。

 
左:2017・08・13 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2   ISO200
右:2017・08・13 C&TS Chama NikonD5   AFNikkor180oF2.8ED  ISO200
次は今日も再びロバトのS字俯瞰に。煙吐き過ぎでセルフマンダーラになってしまった昨日の再履修である。が、今日は列車が陰る心配すらないスカ煙で空振り。続いてサミット 付近の俯瞰に転戦。これも24時間前と同じ行動なので、まったく同じ場所に三脚を立てるのも芸がない。今日は近くの岩場の上に機材をセットしてみた。しかしこれが大失敗。高 度は稼げたものの構図のバランスが崩れてしまって実にイマイチ。絵になるカットは眼下の踏切を渡るシーンだけだった。

 
左右とも:2017・08・13 C&TS Cumbress FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
西行きの追っ掛け大作戦がひと段落して、サミットのクンブレス駅で小休止。かつての面影を残す駅舎や今なお現役の給水塔を眺めながら午後の作戦を練る。今日のチャマ行きは 昨日下ったK-27型が牽いてくるはずである。行くならここか!狙いを定めて現地に車を走らせた。

2017・08・13 C&TS Los.Pinos−Osier NikonD800 AF-SNikkor50oF1.8G ISO200
2017・08・13 C&TS Los.Pinos−Osier NikonD5 AF-SNikkor85oF1.8G ISO200
今日こそは、昨日直前に撤退を余儀なくされたロス・ピノスの大Ωを仕留めたい。池を回るように馬蹄形を描く大カーブは、あまりに雄大過ぎて一望の下に構図に収めるのは不可 能。だが、手前の線路を画面に配して奥の線路に列車をあしらえば、現地の雰囲気は伝わるはずである。ただ、やはりこの時間になって肝心な所に雲が流れるようになってきた。 初めに構えていたロス・ピノス橋ド真横の位置では、池の水面に白空が反射して彩度が落ちる。仕方なくD5に85oで当初の構図を残しつつ、50oを付けたD800を青空の残る右手 に振って構えた。

14時20分を回った頃、微かな音と共にうっすら煙をたなびかせてK-27型が現れた。この景色を前にしては、ナローの機関車と客車はあまりにも小さい。そのアンバランスさを強調 するような絵柄で、かわいらしい古典列車にシャッターを切った。

2017・08・13 C&TS Cresco−Lobat NikonD5 AFDCNikkor135oF2 ISO200
サミットのクンブレス駅を過ぎると、あとはダラダラと下り勾配が続くのみ。基本的に煙は期待できない。が、S字カーブをはじめとするカッコイイ線形はそこかしこに見られる ので、ホロホロとでも煙が出たら儲けものというノリで追っ掛けを続ける。中でも一番撮ってみたいと考えていたのがこの場所だった。

西行きのハイライト、ロバトのSカーブの逆アングル。下り込みではあるものの、編成が程よくうねる曲がり具合が良い感じ。バックの斜面の緑も美しい。数キロ手前で列車を追 い抜き、およそ10分ほど余裕を持って現地に着いた。D5に135o、D800に50oの2台体制で待ち構えた。結果、煙は本当にホロホロ。まぁ、こんなカットもよしとするか。

 
左右とも:2017・08・13 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
最後は昨日と同じチャマ駅近くの踏切で、今日はスナップではなく300oタテ位置の顔面撃ち。貴重なK-27なので“ガチ”勝負である。しかし、やんぬるかな、通過直前に雲の襲来 を受けファインダー見る鉄。洋の東西を問わず、撮れないときは撮れないものである。苦笑いで機材をしまい、チャマの駅に帰ってきた。

構内では、一仕事終えた機関士が、保線員と談笑中。デルタ線でカマの向きを変えるまで一連の動きを眺めてから、遅い昼食を摂りに行くことにした。

2017・08・13 Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO1250
駅前のカフェでハンバーガーという日々にももう飽きた。どこかに店でもないかと町外れまで出てみると、日本でも見慣れたサブウェイの看板が目に留まった。見慣れてはいるが、 店に入るのは浪人時代、男女連れだって青春しながら予備校近くの千駄ヶ谷店でまったりしていた頃以来である。しかも、パンからチョイスしていくあのオーダーを英語でこなす のか…。とはいえ野菜不足挽回には絶好のチャンス。どうにかベジタリアン仕様の一品を作り上げ、ミネラルウォーターとともに頂いた。

2017・08・13 C&TS Chama FUJIFILM X100S FUJINON23oF2 ISO200
最後に駅の売店でお土産グッズを数点買い求めてミッション終了。明日のD&SNG最終戦に備え、今夜は再びデュランゴに投宿する予定である。夕焼けに染まる紅ロッキーを横目に200 km余りの道程を走らなければならない。あまり遅くならないように、陽の傾き始めたチャマの駅を出発した。



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