GALLERY10 姫川渓谷に国鉄色を追って 〜秋〜 3.錦秋のフォッサマグナに沿って 前日は、鉄ファンフォトコンの授賞式で上京されたD.W先輩と鹿島鉄道 (懐かしぃ!) 巡り。夜は実家で母の誕生日を祝い、そのまま徹夜で中央道を走った。例年この時期から日 本海側は寒気の影響で時雨がちになるのに、予報はド快晴のお日様マーク一点張り。逸る気持ちは押さえられなかった。 ピークにはやや尚早ではという不安も過ったが、そんな心 配は全くご無用。「国道148号木崎湖付近、凍結チェーン必要…」未明の豊科ICで降りると、カーナビの無機質な声が警告を発する。確かに道路脇にはビッシリと霜が降り、今季 一番の冷え込みの予感。果たして…信濃大町から仁科三湖に通じる短いトンネルを抜けると、そこは雪国だった! 愛車ゴン太のタイヤはノーマルのまま。幾度かアイスバーンでトリプルアクセル?を極めた経験のある我が身としては、これ以上夜明け前の凍結路を進む勇気はなかった。どうせ 南小谷までの始発は日が当らないだろう、と自分に言い聞かせ、至近のパーキングで日の出まで時間調整のバカ停をかけざるを得なかった。 日が上がってからのんびりと小谷村に入る。急激な冷え込みも手伝って、紅葉の進み具合はまずまず。9時台のキハは、昨年サワ座のついでに撮った中土の鉄橋へ。その後数年通っ てわかったが、ここは地形と日照の関係か沿線で最も色付きが早く、そして外れなく鮮やかな場所であった。まずは午前中心の運用に就くタラコをペンタ165oのタテ位置で一発!
返しの列車を、バケペンだけではなくF5&50oでも撮影。いつもバケには旧ベルビア、F5にはベルビア100を入れているが、仕上がりをみると両者の発色傾向の違いがよくわか る。旧ベルは緑や青に強い代わりに、赤系は渋くなり過ぎる。一方のベル100は緑に目立った鮮やかさは感じられないが、紅葉の赤やオレンジは目を見張る発色をする。上下2枚の 写真を比べると、撮影日が1週間ずれているかのようである(汗)。今さらながら、やっぱり紅葉にはベル100だったなぁ…。
李平の集落を見下ろす道の脇からロープを伝って岩場に登る。眼下には、鎌倉山トンネルを抜けて山裾を縫うように蛇行し、“く”の字を描いて集落を横切る2条の細い鉄路。昨年 のサワ座は長編成を載せるために手前まで引っ張った。だが、今日のターゲットは単行の気動車。だったら奥で切ってみよう。トンネルを出てすぐにちょうど1両分のスペ ースがある。ここなら家並みが入らず、紅葉や川の収まりもよい。距離は遠いが、タラコ色なら景色の中で充分その存在を主張してくれるはずだ。 11時半、シェッドの隙間からチラチラと朱色の車体が見えてくる。チャンスは一瞬。雄大な風景にポツンと1両のキハが収まった瞬間を、そっと1枚切り取った。
午後からは赤ツートンが主役。どこで撮るかは悩ましいところだが、木々の色付きを考えると場所は平岩以南に限られた。というわけで、普段はなかなか撮らない宮本踏切付近の シェッド抜けS字に。教科書通りのアップではなく、中望遠で左手の岩場を入れれば紅葉らしい絵が撮れる。
11月の日は短い。谷間を縫うように走る大糸線では、14時半が実質的な撮影限界。午後一の返しが、早くも本日最終の撮影対象となる。深追いしても山影のリスクが高いと踏んで 南小谷界隈でポイントを探し、下里瀬のパーキングに三脚をセット。後追いにはなるが、紅葉の色付きはここがベストだった。ペンタ90oで手前の紅葉とおにぎり山と青空がピッ タリ。間もなくタイフォン一声、ツインエンジンの重低音を響かせてゴーニーが現れた。
あまりに天気が良いので、帰り際に南小谷駅に寄り道。非電化南端の折り返し地点ということもあり普段は見向きもしないこの駅だが、瀟洒な白い建物はリゾート地らしい雰囲 気を醸し出す。入口を飾るちょっと凝った駅名標にガス灯風の照明もなかなかオシャレなものだった。
沿線の山々はまだまだ錦に染まり始めたばかり。紅葉前線は山頂から里へと日ごと少しずつ降りてくる。来週もまた来よう。次はどこで撮れるかな?次回の好天を祈りつつ、午後 早い安曇野を南下して帰途に就いた。 翌週、長野地方気象台発表の金曜午後5時予報はズバリ!「晴れのち雨」…。う〜ん、悩ましい。でも、この週末は日曜に金沢の58・28の運転もある。イチかバチか、とりあえ ず行ってみるか!弱気な予報にウヤりたがるもう一人の自分をどうにかねじ伏せ、我が身を鞭打って愛車ゴン太のハンドルを握った。 が、勝負は裏目に出た。確かに予報の通り、朝は晴れた。より色付きが進んだだろうと、前回と同じ中土の鉄橋へ。雲が多めの猫の目天気ではあったものの、1発目の赤ツート ンは際どく晴れで頂いた。鉄橋に工事用の足場が組まれ始めているような気もするけれど、まぁそれは気にせずに(汗)。しかし、30分もしないうちに全天俄かにかき曇り、雲の 切れ間は消え失せた。もう終了である。仕方なく、返しは紅葉を前景に列車をブラす。こんな遊びカットもたまには悪くないだろう。
翌日はせっかくのキハ58だったが、この絶望的天気ではヤル気はゼロ。沿線はネタ鉄でパニックしたそうだが、私は夜のうちにETC半額割引を使って撤収してしまったのだった。 ついでに余談を少々。金沢にいた先代の国鉄色58・28は、イベントなどで数回大糸線に出張している。2004年9月の赤ツートンと組んだ3連イベント、同10月の代走、05年6月の 急行「白馬」…私の記憶にあるのはこんなものだが、ことごとく天気に恵まれなかった。いや、初回の3連は結果的に晴れたとはいえ、雨予報で私自身が出撃見合わせ(泣)。「白 馬」は一応晴れだったが、梅雨時の靄っ晴れ。他は完全な曇天で、結局納得いくカットは1枚も残せず終わってしまった。52引退後も、2代目金沢58でイベントなどを組んでもら えたらと願う今日この頃である。 アホというのはこういうことを指すのだろう。その翌週もまたまた大糸へ。この日は四国でキハ58・65の「うわじま」があり、そちらにも大いに食指が動いていたのだが、晩秋に は珍しく日本海側に移動性高気圧が張り出す一方太平洋側には前線が掛かり、四国は曇りベースの弱気予報。直前まで悩んだ末に飛行機をドタキャンしたへっぽこ軍団長・★氏& LIBERTY氏と組んで、3週連続の姫川詣でとなったのだった。 大糸線の非電化は、僅か35q余りとはいえ北アルプスの麓から日本海岸まで標高差がかなりある。当然場所によって紅葉のピークも1週間から10日は変わってくるわけで、我が予 想では恐らく今週あたり平岩以北が見頃を迎えているはずであった。現地に着くと、見込みは大当たり! 平岩〜小滝〜根知〜頸城大野と沿線の木木は見事な錦に染まっていた。し かも、昨年と比べて色の鮮やかさはケタ違い!どこまでも高く抜けた青空とのコントラストは、見事としか言いようがなかった。 朝のキハは小滝の小俯瞰へ。急斜面を直登して、足場の悪いガレ場に三脚をセット。8時を過ぎても日陰のままの立ち位置は霜で凍りつくほど冷え込んでいたが、不自然な体勢で 寒さに耐えつつ待つ時間も、3人でバカ話をしていればすぐ過ぎる。やがて谷間にエンジン音を響かせて、ゆっくりと赤ツートンが現れた。
続いてのポイントは小滝の大俯瞰。昨秋3戦3敗を喫した因縁のアングルである。国鉄色が復活してから三度目の秋。今日こそは! 九十九折りの獣道をてっぺんまで登りつめると、全面紅葉の谷間に架かる2本の鉄橋が見下ろせる。ここ、小滝では姫川に南西方向からの支流小滝川が合流する。合流前の姫 川を渡るのがレベルからの撮影で有名な手前の鉄橋、合流後が奥の鉄橋である。両方同時に画面に入れるのもいいが、間に国道が入る。ここは1本ずつ頂こうか。ペンタ300で 奥、F5で手前と構図を振り分け、列車を待った。
北小谷から平岩にかけては、木々の種類のせいなのか、日当たりや風通しの加減なのか、例年紅葉はいま一つ。今年も、先週見た段階ではまだ色付きが浅かった。今日はどうだ? 国道から屏風のように聳える鎌倉山を見上げると、何と!山肌の大半はすでに落葉していた(汗)。それでも、所々に赤く染まった木々が残る。色は十分。というわけで、昼のスジ はいつものサファリ俯瞰で待つことにした。
今回のラストは小滝の中俯瞰で〆る。本当は昼の列車が良かったが、残念、体は一つだけ。陰るリスクを覚悟の上で、枯れ草をかき分けながら落石覆いの上までよじ登った。案の 定、見る見る影が伸びてくる。小滝の駅にキハが入線。早く来てくれ!祈るような思いでレリーズを握る。黒い部分が多くなってしまったが、その分足回りまでベッタリの低い光 線で、姫川を跨ぐタラコ52を切り取ることができた。
撮影後、折り返してくる南小谷行きのキハ狙いでぶらっと頸城大野駅へ。谷間はもう日は当たらないだろうから、撮影ポイントの南限はここのはず。駅端でススキを入れてサンニッ パを構えてみた。間もなく、柔らかな西日を左半面に受けて、タラコがより一層赤くなってファインダーに現れた。
頸城大野は、人口希薄地帯を走る大糸線において数少ない集落の中の駅。もしかしたら糸魚川に買い物に出掛けるおばちゃんでもやって来るかも知れない。そんな淡い期待を抱きな がら、タラコを撮った後も周囲を徘徊する。と、レアなシーンを発見した。入口に架かる駅名標に日が当っているではないか!以前から、将棋の駒を思わせるこの駅名標はちょっと 気になる被写体だったのだが、扉の前に日よけがあるため撮りづらくて難儀していた。それが、日の低い11月の15時台なら日よけの隙間を縫ってピンポイントで西日が差しこむのか! へえぇ〜。たかが駅名標、されど駅名標。千載一遇のチャンスである。角度を変えて何枚もシャッターを切った。
1時間ほど後、周囲を金色に染めながら、ゆっくりと太陽は山の稜線に沈んだ。素晴らしいド快晴だった。しかし、新潟地方気象台による午後5時発表の予報は「上越地方の明日は、 曇りで一時雨が降るでしょう」…ウソだぁ!俄かには信じられず、残留することにしてその夜はへっぽこ軍団長・★氏と糸魚川駅前の海鮮居酒屋“あすか”で杯を傾けた。果たして 翌朝は…! 車内で寝袋に包まりながらどうしても天気が気になり、深夜に幾度も眼が覚めた。窓から見上げた夜空には、未明の4時頃までは星がキラキラと輝いていた。ところが、6時近くな ると西から猛烈な勢いで雲が広がり、気付けば天気は救いようのない曇天に。とりあえず小滝駅付近で銀杏を撮って、とぼとぼと帰途に就いた。 それからちょうど1年後、2007年も紅葉狙いで大糸線を訪れた。気象情報や各種サイトでは紅葉はイマイチという評判だったが、とりあえず晴れ予報が出たら行かずにいられないの が鉄の性。多少の色の渋さは赤系に強いベル100パワーで吹き飛ばしてしまえ(笑)!深夜の中央道を突っ走り、北小谷の道の駅でコサカミ氏と合流した。しかし、やはり紅葉不発の報 は本当だった。山全体が茶色いのである。う〜ん…。 とりあえず、朝一は意外と早くから日が当たる頸城大野俯瞰へ。北アルプスの冠雪は見事だが、線路際は錦秋どころかモノトーンの世界だった。でもまぁ贅沢は言うまい。みちのく のキハの牙城、盛岡から52・58が撤退した今、この景色の中で国鉄色の国鉄型気動車が撮れるだけでも幸せと思おう。まずは晴れ露出で、赤ツートンのキハ52 115を頂戴した。
昼は、相変わらず芸がないなぁと自覚しながらサファリ俯瞰へ。ここも色付きはサッパリだが、地元のニュースによると昨夜から今朝にかけてはこの秋一番の冷え込みで、山間部を 中心に今シーズン初の積雪となったらしい。確かに、鎌倉山のトンネルに入るまでは道路も白くなっていた。というわけで、紅葉&雪の組み合わせが今日の妙。山頂部分と線路際に 砂糖をまぶしたように残る雪を入れるべく、ペンタ90でワイドにフレーミングしてみた。
午後からは青ツートンとタラコの2連が運用に入る。青はちょっとなぁ…と云いつつも、来るなら撮るかの精神で昨年同様頸城大野の駅先端に脚を立てる。今日はフィルム消費も 兼ねてペンタ400でメインカットを切り、お客の降車があることを期待してF5でスナップに備える。14時57分、夕方のような低いエロ光線に照らされて、青ツートン先頭の2連が やって来た。これだけ赤みがかった光線なのに、やはり125号の顔色はよろしくない。ま、フィルム消費だしと割り切って1発レリーズ!
結局、このツアーを最後に秋の大糸線を訪れる機会に恵まれないまま、フォッサマグナの主キハ52は引退の日を迎えた。昨秋は台風の影響を受けなかったため紅葉の色付きは大変素 晴らしかったというが、残念ながら休みと天気がシンクロせず、唯一晴れた週末は米坂線の「べにばな」に足を向けてしまった。錦に染まる中土の鉄橋俯瞰は永遠の幻に…。 大糸線には国鉄色復活直後から季節毎に足繁く通ってきたが、年による色の良し悪しや見頃の短さから、紅葉の季節は特に好条件で仕留めるのが難しかった。僅かなチャンスを捉え てガッツポーズを決めたこともあれば、ついに脳内激Xのみで終わってしまったポイントもあった。だが、煌めく斜光線に陰影が深く刻まれ、山々が紅く染まる晩秋は、春の新緑と 並んで大糸線が最も輝く季節であったことに間違いはない。これからも、この季節がやって来る度に、私はフォッサマグナに国鉄色を追った日々を思い出すのだろう。
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