鉄路百景 GALLERY09. 米坂線 四季帳

GALLERY09 米坂線 四季帳

4.冬の章〜モノトーンの世界を行く〜

12月、冬の訪れを知らせる天からの使者は、瞬く間に辺りを純白に染め上げる。山も、里も、線路も、駅も…。春のような華やかさも、夏 のような力強さも、秋のような鮮やかさもない。しかし、ただただ荘厳なモノトーンの季節が今、静かに幕を開ける。

09・01・18 中郡−成島 Mamiya645PRO SEKOR A150oF2.8 RVP100
一夜明けると、米沢盆地は予報通りのド快晴だった。冬の遅い朝日が山並みから顔を出し、蒼かった景色は見る間にマゼンダのグラデーシ ョンに変わっていく。「何かキハない?」チバラギ氏の一言で時刻表を繰ると、羽前小松7時13分発の1122Dがあった。よし、撮ろう!定 番の中郡付近で日の出バックのシルエット。幻想的な世界を2連のキハが滑るように走って行った。

この列車、実はよく見ると新型気動車なのだが、ま、この際そんなことは気にしない…ということで。

09・01・18 羽前沼沢−伊佐領 Mamiya645PRO SEKOR A150oF2.8 RVP(+1)
この日の明沢俯瞰は、これまで見たこともないような光景が広がっていた。昨日の吹雪のためか、木々という木々が雪を載せ、その雰囲気 はまるで北欧辺りの森林鉄道のよう。この場所に集結した20人余りの猛者たちはこの“クリスマス・ツリー”に大喜び。間違いなく今日は今 シーズン最高のコンディションであろう。普段は草食系?の私も、このときばかりは肉食獣に変身して中判2台をセットした。

定時にカーブの奥に急行色が顔を出す。緊張感に包まれる撮影地。やがて周囲から次々とシャッター音が響き始めた。手前のカーブに差し 掛かる頃には一斉にモータードライブの大合唱。キハのエンジン音と絶妙の調和を見せた協奏曲は、最後に勝利の雄叫びで締めくくられた。

09・01・18 中郡−羽前小松 
NikonF5 AF-SNikkor300oF2.8ED×1.4 RVP100
A1の午後は米沢−今泉の2往復。1本目の今泉行きを横がちで撮ったので、返しの米沢行きは面がち山バックで狙う。思ったより背景が ゴチャゴチャして撮りづらいが、こういうときは力技で勝負。サンニッパにテレコンを装着し、長玉で無理矢理ブチ抜いた。

09・01・18 中郡−成島 PENTAX67 smcPENTAX300oF4ED RVP(+1)
気温が下がってきたせいか、昼間靄っていた空気は夕方になるにつれて透明度を増してきた。背後の蔵王連山の稜線がクッキリとその姿を 現し、山頂の冠雪が夕日を照り返して茜に輝く。2往復目は成島の俯瞰にアタックした。

ところが、息を切らせて雪の斜面を登り切った頃には、太陽が稜線付近の雲間に隠れて露出はガタ落ち。残念!仕方なく、諦め半分でやっ て来た1145Dに 1/500sec f4でシャッターを切った。手応え、期待は全くなし。が、現像が上がってみると、蒼と白のモノトーンの画面 に赤みを帯びた山並みと国鉄色のキハが実にいい感じで浮かび上がっていた。

 
左 04・02・10 今泉駅 NikonF4s AFNikkor50oF1.4 RVP100
右 08・01・11 今泉駅 NikonF5 AFNikkor80-200oF2.8 RVP100
フラワー長井線との接続駅であり、区間列車の折り返しも多数設定されている今泉は、米沢地区の交通の要衝である。国鉄時代の雰囲気を 伝える長大なホームと随所に残る毛筆体の看板がその存在感を示しているようだ。こんな駅にはやはり国鉄色の国鉄型気動車がよく似合う。

 
左 09・02・22 小国駅 NikonD700 AFNikkor20-35oF2.8 RAW
右 09・02・22 小国駅 NikonD700 AFNikkor50oF1.4 RAW
「明日はヨネらない?」東海道で「富士ぶさ」を撮りながらLIBERTY氏が言う。天気予報は晴れ。運用はA3にツートン・タラコ。「行きま しょう!」決断に迷いはなかった。その夜にはへっぽこ軍団長も加えた計3人で進路を北にとった。軍団長曰くA3の小国バルブから始め たいということで3交替制の終夜運転。未明には小国駅に到着した。早速、構内で早暁の空に紫煙を噴き上げてアイドリング中のタラコ40 を撮影。2009年らしく「天地人」の幟を入れて…。

09・02・22 手ノ子−羽前沼沢 PENTAX67 smcPENTAX300oF4ED RVP(+1)
A3運用といえば宇津峠俯瞰。1月のツアーではまだ光線がサイドに回らないと踏んで敬遠したが、あれから1月余りが経つ。今日ならバ リ順光で撮れるはずである。案の定落合橋の袂には次々と鉄ちゃんカーが集まってきた。大学の後輩OK9氏も登場。さらに山頂では雲発 生注意報氏ら米坂のご常連が既に三脚を並べていた。雪は少ないとはいえ築堤を純白に染め、背後の杉林もところどころ砂糖をまぶしたよ うに着雪している。暖冬であったことを考えれば、充分合格点といえるだろう。

8時半、音もなく画面にツートン・タラコのコンビが現れた。52の前面にこびり付いた雪塊が峠の旅路の厳しさを物語る。山間部ではまだ春 は遠いのか。それでもサイドに綺麗に回った光線に早い春の訪れを感じながら、そっと67のシャッターを切った。

09・02・22 犬川−今泉 NikonF5 AFNikkor20-35oF2.8 RVP100
広角で見上げると、雪の結晶を身にまとった“クリスタル・ツリー”が紺碧の空に広々と枝を伸ばした。微風に梢が揺れる度、少しずつキラ キラと光るものが雪原に舞い落ちる。踏切が鳴り、列車がやって来た。やや線路が遠いのと逆光なのとで列車が目立たないかも…という心 配は杞憂に終わった。仕上がりをルーペでチェックすると、輝く雪原の向こうにはしっかりと混色編成の姿が刻み込まれていた。

翌週も同じメンバーにロマンスカー氏を加えた4人で米坂を訪問した。だが、想像以上の暖かさで雪融けが進み、既に平地区間では道床が 完全に露出していた。これでは 「米坂線 四季帳〜冬の章〜」 は、キハの引退を前にはや終幕である。そして、この原稿を書いている3月 7日現在、現地のコサカミ氏からのご報告によると、沿線はついに田んぼの雪までもが消えて早春の景色へと様変わりしているという…。

ダイヤ改正を週末に控えた次週から、米坂線の国鉄型気動車たちは運用毎に新型に置き換えられていくとのことである。別れを言うにはま だ少し早い。だが、私にはこの舞台で名優たちが活躍する姿を目にする機会はもう二度とないであろう。本来なら見ることすら叶わなかっ た国鉄色の競演。かつて鉄道が輝いていた頃の幻影を、それが幻影に過ぎないものであるにしても、今の自分の視点で懸命に追い掛けるこ とができて、私は幸せだった。ありがとう、そしてさようなら、米坂線の国鉄型気動車たち…。



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