Memorial GALLERY


     2011.07.30

1995.07.30 小沢−銀山
 OLYMPUS OM-1 ZUIKO75-150oF4 RDU(+1)

鉄のX条件はバリ晴れにあり。ゆえに、ちょっと薄日になると途端にヤル気がなくなり、どん曇りや雨では銀箱の箱すら開けない…というのが我々の普段のスタンスである。 だが、この日だけは違った。悪天候の中限界に挑む蒸気機関車に、私は“生命が宿った機械”の姿を見てしまったのだった。

初めてポジフィルムを持って北海道に渡った高2の夏、第一のターゲットは運行最終年を迎えていた「C62ニセコ」であった。渡道2日目、函館からの「ミッドナイト」を 深夜の長万部で下車し、朝一のキハで山線に乗り込む。未明から降り始めた雨は勢いを増し、蝦夷梅雨末期の様相。夏というのに肌寒い。とてもではないが稲穂峠や倶知安峠 の山間部まで歩いて行く気にはなれず、行きは雨天の定番?小沢発車を狙う国道オーバークロスの下に落ち着く。そこで「おぉ、キミもOMかぁ!」と貧ゲバ1本の高校生 に声を掛けてくれた鉄ちゃんがいた。 同じOMでもオリンパスが誇る白ダマ250oF2を構えるその人と並んで爆煙の顔面撃ち。だが、70-210oの我が安物ズームでは、ア ングルはまるで話にならなかった。

「返しはどうするの?」件のOM氏が尋ねる。ロクにポイントも知らない徒歩鉄では案はない。返答に窮していると、「じゃあ乗ってきなよ!」と誘っていただき、倶知安峠の 通称“瀬戸瀬のSカーブ”に同行することになった。いまだ間断なく続く土砂降りの中、ビニール傘片手にカメラをセット。少しでも明るい75-150oF4のズームで構図を整え る。それでもRDU(+1)でシャッターは1/60sec、もう限界である。泣きたくなるようなコンディションの中、峠に汽笛が響いた。雨に煙るカーブの先にヘッドライトが光る。 が、立ち上る煙、威勢のいいブラスト音とは裏腹に、列車は全然近付いてこない。まさに歩くような速度で20‰の勾配を登ってくる。そして切り位置に差し掛かった瞬間だった。 ドドドドッと地響きのような音を立てて2度3度と動輪が大空転!機関車はもう停まる寸前。それでも、黒煙をもうもうと立ち上らせながら大きな機体が再びゆっくり動き出す。 その瞬間をギリギリの露出で切り取った。蒸気機関車を“最も生き物に近い機械”と呼ぶ人たちがいる。このとき私は、紛れもなく“シロクニの息吹”を目の当たりにしたので あった。



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